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過疎化が進行している。

 

平成23年度4月時点で全国に1724ある市町村のうち過疎市町村の数は776。これは全体の約45%にあたる。一方でその過疎市町村の人口は1123万 人余りと、全国人口の約8%にしかすぎない。面積は国土の57%を占める。これは国民生活に必要不可欠な自然環境の保全、農林水産業といった第一次産業の 担い手が圧倒的に不足していることを示すデータでもある。

 

 

そんな「過疎化」の進む地域のひとつでありながらも、「アート」によってその土地のもつ輝きを取り戻している集落がある。その名は「越後妻有(えちごつまり)」。

 

2000年から3年に一度開催されている「大地の芸術祭」の舞台だ。地域に内在する様々な価値をアートを媒介として掘り起こし、魅力を高め、世界に向けて 発信し、地域再生の道筋を築くことを目指すこの芸術祭は今年5回目を迎える。(開催期間:2012年7月29日~9月17日)(HP:http://www.echigo-tsumari.jp/ )

今回のインタビューでは、大地の芸術祭のサポーター「こへび隊」の一員として今夏活動する予定の一橋大学3年の伊藤彩香(いとうあやか)さんと藤原祥乃(ふじわらよしの)さんに前編として、大地の芸術祭・こへび隊の概要、入隊のきっかけ、地域再生への想いなどを聞いた。

(また後編として大地の芸術祭が終わった後の2012年10月に、こへび隊を通じて見えてきた地域再生への手がかり、今後の目標などをお二人に伺いました→こちら

 

 

新しいアートの形

 

―― この記事ではじめて、「大地の芸術祭」を知る読者の方もいるかと思います。簡単に概要を教えてもらえますか?

 

伊藤(以下、伊):大 地の芸術祭は、総合ディレクター北川フラムさんがはじめた世界最大規模の国際芸術祭です。国内外のアーティストの約360作品が展示されます。新潟県の十 日町市と津南町にまたがる、「越後妻有(えちごつまり)」という東京23区がすっぽり入る広さの地域で行われています。2000年から始まり3年に一度開 催されており、今年で5回目になります。3年に一度、「大地の芸術祭」を開催しますが大地の芸術祭の年以外も、約160の作品がご覧頂けます。

 

コンセプトは、「人間は自然に内包される」です。

一般的に自然との関わり方というと、自然保護とか、人間が自然を守ってあげるという感じがあります。ですが本来、人間と自然は別物として考えるものではないと思うんです。

 

「厳しい自然環境(人間が暮らす地域では最も雪が降る豪雪地帯であり、地滑りが多く、地震や豪雨などの自然災害も多い)で暮らしている人々の自然との付き 合い方」をアートの最大のテーマとしています。アートを媒介に地域がもともと持つ魅力を発信する一方で、美術館やギャラリーといった空間ではなく、田んぼ や空き家、廃校といった「他人の土地」をお借りして作品を作るということで、その土地の歴史や記憶、文化に根ざした、アートがそもそも持っている「場の 力」を引き出す、再発見するような作品が生まれています。

 

それと同時にこの芸術祭は地域づくりの新しい可能性を提示しています。新潟県の越後妻有は過疎化が進んでいる地域で、若者がどんどん都会に出て行っていま す。そんななかで新しくこへび隊として都市の若者が芸術祭に参加しその土地でアートを作る手伝いをしていくことで地方の高齢者の方とのふれあいも生み出し ています。

 

 

―― そうですね、田んぼ耕作や雪掘りもしていますよね。5回目を迎える今年はどんな目標を立てているのでしょうか?

 

:最初、大地の芸術祭を始めた時、アートは地元の人にとってはある意味、訳の分からないものだったそうです。「いきなり都会の人が来て何やってんだ」と嫌な顔 にさせてしまったこともあったようなのですが、回を重ねるごとに地元の人の協力を得られるようになりました。それもこへび隊が積極的に地元の人といっしょ に過ごしたり、お手伝いをしたからこそ。今年はさらに、地元の人の協力を得ることで芸術祭を躍進させていくことが目標です。

 

また、温泉を完備し、地元の方々の交流の場である越後妻有交流館キナーレが「越後妻有里山現代美術館[キナーレ]」としてリニューアルオープンします。

建設時から10年後のリニューアルを想定しており、10年目となった今回、新たに現代美術館として新しい作品を入れる予定です。

 

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―― 事前に頂いたリーフレットを拝見し、田んぼから廃校を利用したものまで実に個性的な作品に溢れている、という印象を抱きました。そんな作品のなかでも、一番代表的な作品を教えてもらえますか? 

 

:私が「大地の芸術祭」を代表する作品として挙げたいものが、イリヤ&エミリア・カバコフの『棚田』という作品です。日本農業の事情に疎い海外のアーティストでありながらも、棚田を一目見て感動し自ら日本の農業の歴史を調べ上げてこの作品を作ったそうです。

越後妻有の田んぼの特徴として棚田が多いことが挙げられるのですが、多くの棚田は機械が入れず全部手作業で収穫しなくてはいけません。

 

そういった農業の大変さや苦労、それとともに農作業に勤しむ人の喜びを表現しようとした作品です。

 

藤原(以下、藤):この棚田の持ち主は当初、高齢のため耕作をやめようとしていました。ですが、アーティストはそこ に作品を置くために、地元の歴史や風土を学び地元の人と密な関係を作るというプロセスを踏み、棚田の持ち主はアーティストの作品が映えるには自分の棚田が 必要だということに気づき、稲作を続けました。そうしたことで、作品が展示されただけでなく、いまはこへび隊などの手によって田んぼの手入れが続けられて います。

 

―― 海外のアーティストはどれくらい参加していますか?

 

:今回は44の国と地域からアーティストが参加しています。国内のアーティストでは昭和女子大や日大の芸術学部など、研究室や建築学科単位でまとまって出しているところもあります。

 

また留学生が地元の人と一緒に作成し作品を出すといった形式も行われてきました。例えば香港大学は2006年から、上海の美術学校の学生さんは今年から、こへび隊として制作に参加しています。

 

―― 作る人も様々なのですね。作品には一貫としたテーマのようなものが決められているのでしょうか?

 

テーマと言うよりも、この土地を生かしてそれとどう関わっていくのかがアーティストによって違い、それが作品に表れています。

 

前述の「棚田」のカバコフは地域に密着し地元の良さを生かすという形ですが、自分のコンセプトに基づいてこの土地を表現しているアーティストもいます。

 

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私たち、脱皮します。

 

―― それでは次に、こへび隊についても簡単に紹介して頂けますか?

 

:大地の芸術祭の会期が7月の下旬から9月の中旬までなのですが、その会期が始まり現地にお客さんが入り始めるまでは、主に合宿というかたちで週末に越後妻有に行き、実際にアーティストの作品制作をお手伝いしたり、会期中にこへび隊が宿泊する宿舎の整備をしています。

東京からは金曜日の夜に無料の送迎バスが出ています。

 

会期中は、主にアート管理、ツアーガイド、イベント運営、作品メンテナンスの4つを行っています。

 

アート管理は日中に、例えば空家などを利用した大きめの作品のそばにいて、それを管理しつつ来て頂いた来場者の方に作品説明を行ったり、スタンプがあるので押してあげたりします。

 

ツアーガイドは専門性が高くなるのですが、ツアーコースが100コースほどあるのでツアーバスにこへび隊がガイドとして同乗し、作品や芸術祭の解説をして回ります。

 

また、イベントの運営は、パフォーミング・アートのお手伝いや舞台裏を支える仕事です。

メンテナンスでは壊れてしまった作品の修理をしたり作品のまわりの草を刈ったりします。

 

これらとは別に、芸術祭で生まれた緑を大切に、「大地の手伝い」として、越後妻有の地元のみなさんと道普請という掃除をしたり、農作業を手伝ったりする活動もあります。

 

こへび隊のメンバーは、社会人と学生が半々くらいです。少し社会人の方のほうが多い気がします。

 

:社会人の方のなかには、大学生の時にこへび隊をずっとやっていて、そのあとも続けてる人もいます。他には、普通の会社員の人、学校の先生、自分でガイドをやってる人、ほんと様々ですね。

 

:芸術祭は主に平日に行われるため学生がどうしても必要となります。最初は非常に学生が少なかったのですが、説明会や講演会を企画していったことで現在運営の中心となる大学生、高校生が12人ほどになり、それ以外を含めると20人くらいの学生がこへび隊として活動中です。

 

こへび隊はボランティアと思われがちなのですが、ボランティアというと人を手伝ってあげるとか助けてあげるなど、そのような「無償で」頑張るイメージがあ ると思います。全く否定するわけではないのですが、こへび隊ではそういった経験にプラスして、越後妻有という行ったことのない場所で自分達自身も学び成長していけるという特徴があると思います。

 

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:会期以外では、アートイベントにこへび隊として出て、こへび隊のメンバーを増やしたり、大地の芸術祭自体の認知度を高めたりするような告知や広報活動を行っています。具体的には、六本木アートナイト(2012年3月24・25日に東京六本木で開催されたアートイベント。http://www.roppongiartnight.com/ )や渋谷ヒカリエでも広報を行ったり、大学に行き説明会をしたりもしています。

 

 

―― 今更なのですが、なぜ「こへび隊」という名前なんですか?(笑)

 

:もともと蛇が地元の守り神のような動物として扱われていたのですが、サポーターの名前を募集したところ、「こへび隊」が出てきました。当初は「センスないやろ~」って酷評されてたみたいですけどね(笑)。

 

:蛇って脱皮するじゃないですか。そのイメージで年々成長していく部隊という意味も込められています。

 

 

幼少からアートに触れてきた。

 

―― それでは、お二人がこへび隊に入隊しようと思ったキッカケを教えて下さい。

 

:ほんとにほんとの最初のところはアートが好きだからです。アートは社会を反映したものであり小さな頃からその魅力を感じていました。

 

―― いま振り返って、なぜアートに興味を持ったのだと思いますか?

 

:親がとにかく美術館に連れて行きたがって(笑)。それで、自分も絵を描くのが好きになって中高は美術部に入っていました。

 

大学入学後も美術部で自分で絵を描く傍ら、同時に大学など色々な所でアーティスト保護について学びました。

日本はアートに関して遅れているという印象がありますが、私はアーティストは遺産として文化として守っていくべきものであると思っています。

 

そのため、アートを広めたいなという気持ちはずっと持っていて、昨年の横浜トリエンナーレ(横浜で3年ごとに開催される現代芸術の国際展覧会。http://yokohamatriennale.jp/ )に行った際に、それと同時に「新・港村」という企画がやっていてそのなかでこへび隊のブースが出ていました。そこでこへび隊の人と話しをして、美術館やギャラリーではない新しい形の展覧会もありなんだなと感じました。

 

でも、そのときは「新潟なんてそんな遠いところにはまぁ行けないだろな」とか思ってて(笑)。自分とは遠いものとして考えていました。その後、東日本大震 災が起こり地方のこともこれから考えていかないといけないと思った時に、たまたまパンフレットを見てこへび隊を思い出したんです。

 

それでホームページにアクセスしてみたら「あ、これ行けちゃうんじゃない?」と感じて、芸術祭にお客さんとして行った先輩にも「じゃあ、こへび隊として行っちゃえばいいじゃん?」みたいな軽いノリで後押しされて参加しました。

 

 

:前回の2009年当時、私は高校三年生でした。大地の芸術祭がテレビなどで報じられているのを見て、大学に入ったらこへび隊をやろうとずっと思っていました。

あとは、大地の芸術祭の総合ディレクターの北川フラムさんが私の地元香川県でも瀬戸内国際芸術祭を2010年に行ったこともきっかけのひとつです。そこで はこへび隊ならぬ、「こえび隊」という部隊があるのですが、私はこえび隊でも少しお手伝いをしました。

 

瀬戸内国際芸術祭でも一番重要な島のひとつに直島(なおしま)という島があります。その島には、ベネッセの福武財団が世界的にも有名な美術館を建てているのですが、そのプロジェクトが始まったのがちょうど私が生まれた頃と同じくらいなんです。 

香川県の過疎化が進んだ島に美術館が出来て色んな若いアーティストが入ってきて、地元の人と交流して島はどんどん元気になっていきました。国内のお客さん だけでなく海外から来る人も増え、若い人でも島に定住する人も増えていく姿を私は目の当たりにしました。

「そういうことが出来るのはすごいな」と感じ、越後妻有も場所は違えどやってることは同じだから、是非そこで現地に行って地元の人の声を聞きたい。あるいは芸術祭にずっと携わっているディレクターの人やギャラリーの人や運営側のスタッフの人の想いも聞けたらいいなと思い今回参加しました。

 

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―― 問題意識として、以前から地域再生に興味があったのがきっかけなのですね。

 

:そうですね。生まれ育った環境が大きく影響してると思います。まちを元気にするということにずっと興味があったので、大学では商店街の空き店舗を改装して自分達でお店を経営するという「くにたち富士見台人間環境キーステーション」(http://human-environment.com/ )というNPO法人で活動しています。

 

加えてアートに興味があった理由としては、私も小さな時からずっと美術館に連れて行かれて絵を描くのも好きでした。現在も親がアートプロジェクトに関わっていて、間近に見ているのでアートに対する関心は人より強いと思います。

 

こへび隊が教える厳選スポット

 

―― オススメの作品を教えてもらえますか?

 

:作品がいろいろありすぎて選びきれませんが(笑)、まずメインとしてお客さんに行ってほしい場所はまつだい「農舞台」ですね。現地の大切なインフォメーションセンターです。

 

そこからは草間彌生さんの作品が近くで見れて、城山という目の前の山には、約30の屋外作品が集中しているエリアなのでどんな人でも楽しめるのではないかと思います。

また、個人的には、実際にこへび隊の合宿で制作のお手伝いをした開発好明さんの作品が気になっています。いまは使われていない体育館で、子供たちと「竜宮城」を作るワークショップを行っています。

 

:私はまだ現地に行っていないのですが、個人的に気になっているものは、廃校を使ってインスタレーション(※場所や時間、空間を作品として変化させる現代芸術の手法)をやっている「最後の教室」(C・ボルタンスキー+J・カルマン)という作品が気になっています。

 

香川県に豊島(てしま)という島があるのですが、そこの美術館のインスタレーションを見て感動したので、最後の教室も早く見てみたいです。

 

一番実感して欲しいのは「繋がリアン」。

 

―― それでは前半最後の質問に移らせて頂きたいと思います。

お二人はこの芸術祭に来てくれる方に、どんな想いで来てそしてそれぞれのまちに帰ってもらいたいですか?

 

:「コレ面白いな、また来たいな」と思ってもらえたら嬉しいです。なんとなくいい気分になって欲しいというか、地元の人と話したり、妻有の綺麗な自然に囲まれていいものを見るとか美味しいものを食べる経験が、その人の心の中の片隅にでも残ってくれたらと思っています。

想い出に残ればまた来てもらえると思うし、自分の経験を他の人に伝えてもっとたくさんの人が同じようなことに興味をもつという波及効果もあります。芸術の力に気づくだとか、過疎の地域だけど自然が綺麗で人が温かいということをより多くのひとに共有してもらえたらいいなというのが私の願いです。

 

:一番実感して欲しいのは、人との繋がりです。

 

―― 繋がリアンじゃないですか!!

 

:繋がリアンです、まさにそれ。私はこへび隊としてはじめて越後妻有に行った時に、頑固なおじいちゃんとそば打ちをやるという面白い(?)体験をしました。す ごい頑固だったのですが最終的に仲良くなって、「おまえはそば打ちの名人だ。また来いよ!」と言ってもらえました。今まで会ったことがないような人が地方 にはいるわけで、特に関東圏などの都会で育った方はやはり自分の価値観を一回捨てて向こうの雰囲気に溶け込んでみて欲しいです。

1日や2日でも楽しめないことは決してないのですが、楽しみ切るには是非こへび隊になってより長い期間過ごしてみてください。

 

大地の芸術祭HP:http://www.echigo-tsumari.jp/

こへび隊HP:http://kohebi.jp/

 

 

【インタビュアー・写真…長瀬晴信 写真…川嶋高司】