日本各地で問題となっている空き家。

こうした古民家を一棟貸しの宿泊施設として改築する活動を中心に、地域のまちづくりの取り組みをサポートする「庵プロデュース」という会社が京都にあります。

長い時間をかけて培われてきた各地の暮らしに「美」を見出し、「暮らすように旅する日本」を目指す取り組みについて伺いました。

 

 

古民家はその町ならではの魅力  ─ 空き家を観光資源に

 

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今回お話を伺ったのは、取締役を務める一級建築士の黒木裕行さん(写真左)と、プランナーの小野文子さん(写真右)。庵プロデュースとは、いったいどのような取り組みをしている会社なのでしょうか。

 

「地方では少子高齢化、空き家問題など、多くの課題が山積みになっています。

庵プロデュースでは、そういった課題のひとつの解決策として、空き家となっている古民家を改修して一棟貸しの宿泊施設として運営する『町家ステイ』を提案しています。」

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「空き家、という言葉を使うとネガティブなイメージですが、それは古い町並みを守っている一棟のひとつでもあります。そこに光を当てて、新たな観光の仕掛けを作るのが私たちの仕事です。

基本的には町の行政と組んで、空き家を町家ステイとするための企画や建築、運営のサポートをしています。」

 

庵プロデュースの仕事は、空き家となっている古民家改修を通したまちづくりのサポート。古くからある古民家という資源をその土地ならではの魅力としてサービス化し、それを旅行者に楽しんでもらうことで地域の活性化を図っているのです。

 

 

「暮らすように旅する日本」を目指して ─ 滞在体験型の観光とは

 

そんな庵プロデュースが地方の魅力を知ってもらうための観光のかたちとして提案するのが、「滞在体験型の観光」。いったい、どういったものなのでしょうか。

 

「ひとことで言うと、『少人数で、自分たちの意思によってその町を知り、楽しむ旅』といったところでしょうか。

自分たちの好きなように町並みを歩いたり、町の人と世間話をしたり、その地の伝統に触れたりして、新しくその町で何かを”発見”する。それこそが旅の醍醐味ではないかと、私たちは考えています。

観光スポットを巡る旅では見えない、その町の本当の魅力を楽しんでほしいですね。」

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町を作っているのは、他でもないその土地に暮らしている人々。町の人々が営む暮らしに寄り添うことこそが、その町の本当の姿を知り、楽しむということなのかもしれません。

 

「そういった意味で町を楽しむためには、やはりある程度の時間をその町で過ごす必要があると思うんです。

町はそれぞれ朝の顔、昼の顔、そして夜の顔を持っています。時間帯によって変わっていく町の姿を全部見てほしいし、その中で暮らすような体験をしてほしい。『いらっしゃいませ』『ありがとうございます』だけではなくて、『おはようございます』『こんばんは』『おやすみなさい』を言えるような、そんな関係を楽しんでほしい。

私たちが目指している”暮らすように旅する”というのは、こういうことです。

旅を通して生まれる人の繋がりをもとに、旅先の土地をじっくりと、深く楽しめたら良いですよね。そのきっかけを、空間作りを通して提供できたらと思います。」

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知らない土地で過ごす時間は、きっと普段の日常では感じられないことに気づかせてくれるはず。

目立った観光スポットがあるかどうか、地域の魅力はそれだけではないのです。

その町に流れる独特の空気を感じ、暮らすような体験を通して、その町があなたの新たな故郷になるかもしれません。

 

 

体全体で町家の魅力を感じてほしい ─ 空間づくりへのこだわり

 

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筆者は庵プロデュースが手がけた町家ステイのひとつ、島根県津和野町にある「町家ステイ戎丁(えびすちょう)」に実際にお邪魔させていただきました。

梁が行き交う天井、座敷越しに見える端正な坪庭に、津和野町が育んできた美しい暮らしを垣間見ることができます。

 

それに対してリビングやトイレは現代の暮らしに合った作りになっており、とても明治時代に建てられた町家だとは思えません。

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伝統的な美しい佇まいはそのままに、現代に合わせて快適に過ごすための工夫がなされた町家ステイ。過去と現在の暮らしがちょうど繋がり合うようなこの空間に、庵プロデュースのこだわりがあるのだそう。

「私たちが扱っているのは文化財ではなく個人の”家”です。だから、”残す”ことではなく、”住む人が快適かどうか”がその建物の価値なんです。 」

Processed with VSCOcam with a6 preset「たとえば文化財を見学して、『あ~いいですね、すばらしいですね』という空間は、見るだけで終わってしまいますよね。『ここで何日もごろごろしたい』とはなかなか思えません。緊張感とか不便さとか、いろんな問題があるでしょうから。

でも文化財は、それでいいんです。”当時の暮らしを知ること”が目的ですからね。文化財を継承していくために、昔の技術や材料を使って完全に再現するというのはすごく大事だし、必要なことです。

 

でも私たちは、家を本来の目的で使ってもらうことで、その建物の魅力を感じてほしいと思っていて。お酒を飲みながら、くつろぎながら、ごろごろしながら…そういう状態だからこそ、良さが素直に入ってくると思うんです。

緊張感とともに立って歩くのではなく、その空間に自分を置いて、その空間の一部になって、そこに漂う空気全体を味わっていただきたいですね。」

Processed with VSCOcam with a6 preset一棟貸切のスタイルだからこそ実現する贅沢な時間の中で、普段とは違う観点になれたり、違う考えが生まれたり。こういった特別な時間も、旅の醍醐味です。

 

 

外の人間だからこそ見える、日常に潜む価値

 

京都を拠点として数々の京町家をリフォームしたノウハウを生かし、これまで奈良県五條市、京都府伊根町、島根県津和野町などのまちづくりに関わってきた庵プロデュース。

ゼロから建てる旅館やホテルとは違い、「もともと使用されていた町家を生かす」というのが、町家ステイの最大の特徴。新しいものを外から持ち込むより、その地に「あるもの」に新たな価値を加えることを大事にしているのだそうです。

 

「その土地に何か新しいものを持ち込むよりも、『もう、あるじゃないですか』っていうのをその地に住む方々と一緒に発見して、それを生かした取り組みをしたいんです。外で育てたものや磨いたものを持っていっても、それは彼らのものではないですからね。

滞在体験型の観光によるまちづくりに取り組むのは、私たちではなく町の方々なんです。」

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「既にあるのに、気付かれていない ─ 地方は、そんな魅力で溢れています。その地に住んでいると、自分でその魅力に気づくことは難しいですよね。それを見つけるのは、外の人間である私たちだからこそできることなんです。

そして作業を進める上で重要になるのは、私たちのクライアントである地域の住民の方々とのコミュニケーションや相互理解。これは欠かせません。

こういう形で私たちが関わることで、住民の方々自身にも自分の住む地域の魅力を再発見してもらえる機会になってくれたら、と思っています。」

 

外の人間だからこそできる、潜在的な魅力の発見。外の人間だからこそわからない、その町の事情。これを埋めるのが、丁寧なコミュニケーションによる密な関係づくりなのです。​

「まちづくりの主役は、その町に住む人々」と何度も繰り返していたお二人。住民の方々に受け入れられてこそ、”暮らすように旅する日本”は実現するのです。

 

 

答えのないまちづくり ─ これから先に必要な視点とは

 

行政と手を取り合いながら、各地の町づくりのサポートに取り組む庵プロデュース。さいごに、地域が抱える様々な課題にどう向き合っていきたいか伺いました。

 

「全国の地域で、『町がまとまらない』『企画がなかなか実現しない』という話を多く聞きます。町を何かの目的に向かわせるということは、本当に難しいことなんです。

まちづくりには答えがありません。だから私たちがその答えを持っていくようなことはしませんし、経験やノウハウはあっても、あくまでそれぞれの町の事情に合わせて対応しよう、という思いで取り組んでいます。

それぞれの地域が様々な問題に直面する現在、そういった視点が必要だと思いますね。」

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「さらに行政と民間が連携することで、より可能性が広がると思います。

どちらにも強みがあり、弱みがある。だから私たちの役割は、行政と民間の間に介入しながら、両者を安定させること。

お互いが支え合いながら持続性のある町づくりを目指していけたら、日本の旅はもっと楽しくなると思います。これからも是非、いろんな町に関わっていきたいですね。」

 

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その町が持つ潜在的な魅力を生かし、住民とのコミュニケーションを土台とした丁寧な町家再生を行う庵プロデュース。

地域の課題を長い目で見据え、真摯にまちづくりに取り組む姿が印象的でした。

私たちが”旅行”に求めているもの、それは自分の日常には無い景色、食べ物、文化…、
つまり”そこにしかないもの”ではないでしょうか。

それぞれの地域の暮らしの背景には、その土地で長らく培われてきた歴史や伝統があります。だからこそ、それは”その土地にしかない魅力”といえるでしょう。

”暮らすような旅”は、私たちがまだまだ知らない日本の魅力に気づかせてくれるはず。

これからの日本の旅が、楽しみです。

 

庵プロデュースHP:http://www.iori-produce.net/

 

【文章・写真:山下紗代子