ここは京都のとある本屋。

京都という場所にふさわしい、古風な佇まいが印象的だ。

暖簾をくぐると、たくさんの本が私を出迎える。
しかし、本には値札がない。

これらの本は、全部「タダ」。
ここはフリーペーパー専門店、只本屋。

 

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只本屋(ただほんや)は、今年3月にオープンした関西で唯一の「フリーペーパー専門店」。毎月さいごの週末にオープンし、全国各地の様々なフリーペーパーを取り揃えています。

運営をしているのは、関西のアート情報サイト「KANSAI ART BEAT」編集長の山田毅さんと、フリーペーパー作成に関わる学生5人。今回はそのうちのふたり、斉藤菜々子さんと宇田和紗さんにお話を伺いました。

 

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写真右:斉藤 菜々子(さいとう・ななこ)

武蔵川女子大学3年生。
関西の大学生によるアートプロデュース団体「SHAKE ART!」代表。

写真左:宇田 和紗(うだ・かずさ)

神戸大学3回生。
神戸大学に通う大学生向けの情報誌「KooBee(クービー)」のデザイン部リーダー。

 

関西初のフリーペーパー専門店、只本屋

 

斉藤さん:「フリーペーパーの制作を通じて知り合った友人と『関西のフリーペーパーを盛り上げていこう!』という思いではじめました。

フリーペーパー自体は関西にもすごく多かったのですが、それらが集まる場所は関西にはなかったんです。」

 

近年、新しいメディアとして注目されているフリーペーパー。発行されている数こそ多いものの入手する手段は限られており、発行地域の住民などといった一部の人しか手に入れることができないのが現状。

只本屋には、関西だけではなく全国から集められた様々なフリーペーパーが集められています。

 

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読む人にも、作る人にも、楽しんでほしい

 

フリーペーパーは、読む人と作る人がいて初めて成り立ちます。だからこそ、只本屋は制作者の思いも大切にしながら活動しているのだそう。

 

宇田さん:「フリーペーパーを多くの方に楽しんでほしい、というのはもちろんなのですが、フリーペーパーの制作者同士の繋がりが生まれる場所でもあってほしいと思っているんです。

それぞれが好きなものを作っているので制作者同士の交流というのは意外と少ないんです。だからこそ、只本屋で刺激を受けたり交流が生まれたら嬉しいな、と。

そういった面からも、フリーペーパー文化を元気にしていきたいですね。」

 

「読む人にも、作る人にも、楽しんでほしい」。この思いは、彼女たちが実際にフリーペーパーの制作に関わってきているからこそ。

制作者としての思いは、只本屋の在り方にも生きています。

 

斉藤さん:「只本屋では、持ち帰ることのできる冊数を制限しています。それ以上持ち帰りたい場合は、有料の紙袋を買っていただきます。これが他のフリーペーパー専門店とは違うところですね。」

 

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「その理由は、『自分の好きなものを選ぶ』という行為をしてほしいからです。

無料だからってあれもこれも持ち帰るのではなく、お店にある色んなフリーペーパーを見て、『これ、いいな』という気持ちを大切にしてほしいなぁと。」

 

宇田さん:「持って帰ることを目的にするのではなく、”読んで””見て”楽しんでほしいんです。これが、作り手の思いですからね。

どんなフリーペーパーにも詰まっている、作り手の”伝えたい”思いを大切にしたいんです。

ただフリーペーパーを配って広める場所、ではなくて、作り手と読者を繋ぐ場所であってほしいですね。」

 

ほとんどの人は買い物に行ったら、”選ぶ”という行為をすると思います。

モノが溢れる現代において、この行為は私たちにとって大変身近なことですよね。値段、流行…様々なことを考慮しながら吟味を重ねますが、決め手は「どれが、どちらが自分は”好き”か」という気持ちだと思います。

それはたとえ、商品が有料であっても無料であっても変わらないことなのだと、私は只本屋に教えられました。

そして、”選ぶ”ということは決してマイナスなことではないのだと。自分の”好き”の気持ちと向き合う、素敵なことなのだと。

 

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只本屋は、無料であるフリーペーパーを扱いつつも、この”選ぶ”という行為を通じて、”自分の琴線に触れる瞬間”を感じさせてくれる場所です。

実際にフリーペーパーの制作に関わり、そこに込められた思いを熟知しているメンバーだからこそ実現した空間なのだろうと、改めて感じました。

 

フリーペーパーが連れて行ってくれる、未知の世界

 

フリーペーパーの何よりの特徴は、”無料であること”だと思います。この”無料”ということが生み出すものは何でしょうか?

関西の大学生が発行するアート情報誌「SHAKE ART!」の代表を務める斉藤さん、そして神戸大学に通う大学生向けの情報誌「KooBee(クービー)」のデザインにたずさわっている宇田さんに”フリーペーパーの魅力”をお聞きしました。

 

斉藤さん:「私が思うフリーペーパーの魅力は、”未知の領域への敷居が低いこと”です。

有料で”買う”ものだったら、自分の興味のあるものしか手に取らないですよね。フリーペーパーは、ふと手にとって持ち帰って『こんな世界があったんだ!』って気づくことができるんです。」

 

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「そこには”買う”っていう壁がないんですよね。無料であるフリーペーパーは、特にマニアックな世界を取り上げているものが多いですし。フリーペーパーを通じて、未知の領域にハマる人が増えたらいいなぁと思います。」

 

話を聞いていると、世の中で当たり前の存在であるお金は、想像以上に重いものだと感じました。その重さは、ときどき未知の世界に飛び込む壁ともなります。世界は、私たちが思っているよりもずっと広く、深い。

 

宇田さん:「私は、『自分に”近いもの”に出会える可能性が高いこと』だと思っています。」

 

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「本屋で見かける雑誌って、基本的に『大衆向け』とか『女子大生向け』とか、そういった大きなジャンルに分けられていますよね。

でも、フリーペーパーには制作者の思いがダイレクトに詰まっているので、よりターゲットが絞られています。だからこそ、自分がグッとくるものに出会える可能性が高いんですね。

私たちは、色々なフリーペーパーを取り揃えて待っています。みんながそれぞれ自分に合うものを探しに来てほしいですね!」

 

 

本屋で”売られている”雑誌は、やはり大衆向けの内容になりがち。

でもフリーペーパーは、無料であることを生かして、”好きなものを好きなだけ、好きなように”作ることができます。だからきっと、そこには自分にぴったりマッチする1冊があるはず。

只本屋には、そんな出会いが溢れています。

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フリーペーパーを通じたコミュニケーションの場づくりを

 

3月末のオープンから、只本屋の人気は高まるばかり。月の最後の週末の店内は多くの人で賑わい、様々なメディアでも取り上げられています。これからの只本屋は、私たちをどのように楽しませてくれるのでしょうか。  

 

斉藤さん:「フリーペーパーを配るだけではなく、読む場や、フリーペーパーを通じて交流する場も用意したいですね。具体的に、イベントやサロンの開催を考えています。

持ち帰るだけではなく、そこから発見、そして出会いを生み出したいんです。読者の人が、毎月さいごの週末が来るのを楽しみにしてくれるような、そんな存在になりたいですね!」

 

宇田さん:「只本屋の軸は、『フリーペーパーを通じたコミュニケーションの場を作り、フリーペーパーの文化を盛り上げること』。

フリーペーパーは、”読んで楽しむ”ということ以上の可能性を秘めていると思います。1冊のフリーペーパーがいろんな文化や人間同士を結びつけるーそんな未来、面白いですよね!」

 

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来月只本屋は新たな場所でリニューアルオープンします。より多くの人にフリーペーパーの魅力を届け、さらに多くの出会いを生み出すために。

場所は、清水寺から歩いてすぐ。大きなお庭が魅力のゆったりとしたゲストハウス、常松庵の一角です。新たな場所でも、フリーペーパーを通じたあたたかい空間が次々と生まれることでしょう。

 

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只本屋を埋め尽くす、たくさんのフリーペーパー。

フリーペーパーの数だけ、そこに込められた”思い”が、
そして、”好き”の気持ちがある。

毎月2日間だけオープンする、只本屋。

そこは、”好き”が溢れる素敵な場所でした。

 

公式Facebookページ
Twitter:@tadahon_ya

 

【新店舗】

京都 東山 常松庵

605-0871
京都府京都市東山区慈法院庵町594−1

 

【文章・写真:山下紗代子