ある時はデザイナー、ある時はイベントのファシリテーター、
またある時は大学で教鞭をとり、おまけに本も書く。

西村佳哲―彼はいったい、何者?

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西村佳哲(にしむら・よしあき)

1964年東京生まれ リビングワールド代表、プランニング・ディレクター、働き方研究家

武蔵野美術大学卒。つくる・書く・教える、三種類の仕事。建築分野を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物、公共空間のメディアづくりなど、各種デザインプロジェクトの企画・制作ディレクションを重ねる。多摩美術大学、京都工芸繊維大学 非常勤講師。(リビングワールドHPより抜粋)

 

3つの仕事

西村さんの職業を一言で言い表すことはできません。その仕事は、大きく3つに分けられると言います。

ひとつ目は「書く」仕事。「働き方研究家」として様々な働く人を取材し、雑誌の連載や本の出版をしています。

ふたつ目は「つくる」仕事。妻とふたりで運営している「リビングワールド」という会社で、モノづくりやクライアント・ワークを手がけています。

3つ目は「教える」仕事。大学の非常勤講師としてデザインを教えたり、ワークショップを開催したりしています。

まぁ実際には、「色々やっている」という感じですね。

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センスウェア(世界を感じる道具の総称)をテーマに、リビングワールドとして手がけたもの。
「太陽の光が地球に届く時間」と「月光が地球に届く時間」を示す砂時計。

(出典:リビングワールド

 

 

サラリーマン時代に感じた、「自分が死ぬ」感覚

現在は様々な仕事を手がける西村さん。もともとは大手の建築会社に勤める、いわゆるサラリーマンだったのです。

美大でインテリアデザインを専攻して、その流れで建築会社に就職しました。会社では主に設計や企画の仕事をして、会社を辞めたのが30歳のときです。

理由は色々ありますが、頼まれたことをやる社内請負業の体制に、僕が合わなかったというのもあるでしょうね。会社自体に不満はなかったけれど、「ここにいても自分の展開がないな」とは感じていました。

このまま会社を続けていたらどうなるだろう―そう考えたとき、西村さんは「不安」を感じたと言います。

このまま会社で仕事を続けていたら、「来た仕事に応える」という能力はどんどん磨かれていくだろうと。でも、自分で仕事を作る能力は磨かれないだろうなぁと思ったんです。それが不安でした。

そうやって仕事に応える能力が磨かれていくと、自分のやりたくない仕事もやるようになるんだろうな、と。自分の倫理に反するような仕事もね。

たとえば、原子力発電所の近くに、そのPR館を建てる仕事が来たとしますよね。そして、僕は「原子力発電所は、社会的にあっても良いものかなぁ」と思っていたとする。でも、僕は平気でその仕事をするでしょう。何らかの理由を作り出して、周りと自分を納得させて…。

そういうことを繰り返していくうちに、自分の中の”何か”が死んでいく可能性があるなと思ったんです。

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「自分の中の“何か”が死んでいく」とは、どういう感覚なのでしょうか。

自分の中のどこかが殺されていくというか…自分が自分を殺していく感じです。

ふとした瞬間に感じた気持ち、喜び、わだかまり…、そういったものを殺していくんでしょう。「本当はしたくない」というような気持ちがあっても、静かに、静かに、殺して、そしてやりたくないことをやる自分自身にも慣れてしまうでしょうね。人間は、慣れる生き物ですから。

自分の感情を静かに殺し、そんな自分に慣れていく…これが重なっていくと、自分らしさが失われていくのだと、西村さんは言います。それが、「自分が死ぬ」ということ。生きているのに、死んでいるような状態になるのです。

 

出会いをかたちに

30歳で仕事をやめ、自分で仕事を作ってきた西村さん。たくさんの人との出会いを経て、現在は「出会いを形にする」ことが仕事の軸となっているのだそう。

以前は自分の夢を形にしたいと思っていましたが、ここ5年くらいは、自分の出会いをどう形にするか、それを考えています。

「出会いを形にする」と言ってもピンと来ないひとが多いと思うので、ひとつ例を挙げます。たとえば、たまたま出会った3人の人間が仲良くなって、「せっかくだし、この3人で何かはじめようか」となったとします。イベントとか、お店とかね。これが、出会いを形にするということです。

ここで大事なのは、「何をするか」ではなく、「この3人でできるのは何か」ということ。その実現に、自分の能力を使っていきたいと考えているんです。

それはつまり、ないものねだりをしないということでもあります。その日に冷蔵庫にあるもので美味しいものを作れちゃう人って、やっぱりカッコいいんですよね。僕も、そういう人間でありたいんです。

 

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西村さんが”出会いを形にした”ことのひとつであるフォーラム「”自分の仕事”を考える3日間」の様子。
集まった人たちが、西村さんが招いたゲストや西村さんの話を聞き、感じたり考えたりするワークショップ。

(出典:リビングワールド

 

“働くこと”と“生きること”

西村さんは、「働き方研究家」として様々な働き方をする人に取材をし、本を書く仕事もしています。

仕事には、生きている人を死んでいるような方向にもっていく仕事と、生きている人の、“生きている”ことがさらに輝くような仕事の2種類があるのだと語ります。

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”働き方研究家”として西村さんが執筆した本。
私たちの生活の中心ともいえる”仕事”とは何か、を考えさせられます。

(出典:リビングワールド

あなたは今、生きていますよね。で、僕も生きている。ここでの“生きている”は、空気を吸っていて、心臓が鼓動していて…ということです。

でもそれだけではなくて、その生きている時間の中に「あぁ生きてるなぁ」ていう実感が湧いてくる瞬間、ってのがあると思うんですよね。改めて「生きてるなぁ」って感じたり、生きていることに喜びを感じたり…。それが「生き生きする」っていうことだと思うんです。

「生き生きする」って、「生」が2回登場するでしょ。生きる上に、さらに生きるわけです。反対に、生きているけどまるに死んでいるような、そんな感覚で生きている人だってもちろんいますよね。でも、生きてる限り、僕は生きて、さらに生きたい。だって今、生きてるんだもん。

 

僕は、“生きている”ということがより感じられるような影響力をもつ仕事は全ていい仕事だと思います。

たとえば、全盛期にあるサッカーの中田選手が試合でファインプレーをしたとします。ゴール前に切れ込むようないいボールを繰り出して…その時観ている観客みんなが「ウオーッ!」って感じになって、そしてこう言うわけです。「いい仕事をしたね!」と。この言葉が自然に出てくる感じは、すごくおもしろいなあと思います。

 

こういう時、その仕事に触れている人がどうなっているかというと、みんな存在の輪郭線がはっきりしてるんですよね。

ここで言う「輪郭線」とは、その人が“生きている”という感覚をはっきりさせる線です。生命としての存在感が増していくような、線。生きている人を相手にする以上、そういった仕事の方がいいのではないかと、僕は考えています。

 

「いる」人間、いるのに「いない」人間

「生きている」という感じが伝わり、存在の輪郭線がはっきりしているような人間を、西村さんは「いる」と表現します。世の中には「いる」人間と「いない」人間がいるのだとか。

たとえば、タクシーの運転手。話しかけてきたり、細かい気遣いをしてくれたりする運転手さん、いますよね。彼は「いる」わけです。

逆にただ車を走らせて、形式的にお金のやり取りをして、まるで無人の車に乗っているような感覚…この場合、運転手は「いない」んですよね。

「いる」人は「この仕事を私がしている」っていうのがバンバン伝わってくるんです。運転手という役割の前に、「自分」という存在がある。逆に、それが感じられない人が「いない」わけです。

西村さんは、この「いる」ということに大変惹かれるのだと言います。その理由は、「そこにいのちを感じるから」。

いのちを火に例えると、「いる」ことは火が「ぽっ」って点っているイメージで、反対に「いない」ことはその火が消えかかっているイメージ。生きている以上完全に消えることはありませんが、火の状態が違うわけです。

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で、「いる」人たちのいる場所は、「何者か生きてる人たちが居る場所だ」っていう感じがするんです。「いる」スタッフが多い飲食店はお店全体がそういう雰囲気になりますし、魅力を感じますね。料理は大したことないのに、また行きたくなっちゃったり(笑)。

僕は、そういう場所や仕事が増えると面白いなあと思っているんです。なぜかというと、そういうものに触れると、いのちが元気になるからです。逆に死んでいるものに触れていると、自分まで死んでいくような気分になりますね。

おつりの渡し方ひとつを取っても、役割の前に、その人が存在として「いる」時ってあるでしょ。どんな些細なことでもいい、そういう瞬間に触れると、自分の中の温度みたいなものが上がる気がしませんか。

だから、温度を下げる方向よりは、上げる方向へ。そういう仕事が積み重なっていくと、あたたかいと思うんです。

さいごに、どうしたら「いる」人間になれるのか、尋ねてみました。

「いる」感じがする人といっしょに過ごしていればいいと思いますよ。それが一番手っ取り早い。そういう人たちと日常的に一緒にいると、自然とそういう状態になっていくはずです。

あとは、自分の実感を大切にしてほしいですね。自分の思考よりも、「自分が今何を感じているか」、それを意識して、大事にすることです。瞬間的に感じていることを素直に味わってみたら、きっと色んなことが見えてきますよ。

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息を吸って、吐いて。
私たちはいま、生きている。

そして、生きていることを感じることが出来る。

どうせ生きるなら、生き生きと生きよう。
どうせ働くなら、生き生きと働こう。

誰かの温度を上げられるような「いる」人間になろう。

そう、強く思った。

リビングワールドHP

【文・山下紗代子