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冬場にやってくる石焼き芋屋、少し呑んだ後に見かけたラーメン屋。
いつも出逢えるとは限らない、車でやってくるあの屋台とのひと時。

そう、今回お話を聞いたのは
旅する屋台『THE○○カレー』を営む古市さん。

旅を進めるなかで形成された確固たる想いと
常に変化し続ける想い。

平日は働きながら、土日はカレー屋として旅をする道。
その道の先に古市さんが見据える未来とは。

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―古市さんとカレーとの接点は大きく分けて2つある。共通点は炊き出し。

「カンボジアに僕が毎年行ってる孤児院があって、訪問するたびにそこの子どもたちへカレーを作っていて。」

―学生時代から通ったカンボジアの孤児院。カンボジアという国はベトナム系、中国系、クメール系、さまざまな人種で構成された国。民族の違い。古市が通った孤児院において、その違いは食事において表れた。

「クメール系の子たちはとてもココナッツの風味が好きで、中華系の子たちは中華料理の味に慣れている。ただ、その孤児院はカンボジア土着の民族であるクメール系の子たちに合わせたクメール系のご飯を出していた。そうなると、中華系の子によってご飯が食べられない子が出てしまう。」

―幼少期に生まれ育った環境によって形作られる味覚。古市が孤児院の子どもたちへ炊き日本の料理を振舞うなかで、全員が美味しいと口を揃えたのは。

「日本のカレーライスだった。それだけはどの民族の人も美味しい、美味しいって。」

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多様な大人と出逢う場を。

―誰からも愛され、国境の垣根も越える料理、カレーライス。彼が定期的に参加する大阪は釜ヶ崎で行う炊き出しの1番人気もカレーライスだ。

「昔から豚汁などさまざまな料理を振る舞ってきたけど、人気があるのはカレーライスだった。ホームレスのおっちゃんらも学校給食で食べていた、幼少期から親しみのある味。全国に類を見ない、年齢層、国境、生活背景を問わずに食べられている料理。」

―さまざまな場で、カレーを通したコミュニケーションを取ってきた古市。古市は移動するカレー屋を営む。1つの固定された場所ではなく、「移動」する理由はなんだろう。

「将来、ゲストハウスと寺子屋を合わせたような場を作りたいんです。ゲストハウスはいいろんな国、地域から人がやってくる場所。そこに中学生や高校生が勉強する場があれば、多様な大人と出逢える場所になる。だからゲストハウスと寺子屋が一緒になった場所を地方に作りたい。地方になればなるほど、子どもが多様な大人と出逢う機会は少なくなるから。」

―その活動場所の候補地として古市が選んだのは香川県小豆島。

「候補地を探してた時に、小豆島との縁が繋がって。ただ、突然の移住へは不安もあったので、まずは週末限定で通おうと。小豆島でカレー屋をやりながら、小遣い稼ぎをして週末だけ旅に出る生活を去年の10月から。」

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「労力」の一端を担い、見える新たな世界。

―ただ、冒頭でも書いた通り、古市の願いは「儲け」ではなく「出逢い」にある。事実、「カレー」という意思疎通の手段を通した、島民との交流は良好だ。

「カレーを通して小豆島の人たちと仲良くなりたい。小豆島の野菜を使うことで、農家の方とも仲良くなれるし、農家さんにとっても丹精込めて作った野菜を買ってもらうことはとても嬉しいこと。『野菜買わせてください。』、『美味しかったです。』、その言葉を通してすごく農家さんと仲良くなれる。」

―繋いだ良好な関係性は、思わぬ副産物も生んだ。

「そんなコンセプトで始めたから現地の野菜を買って、農家さんとコミュニケーション取りながらカレーを作っていくうちに、小豆島で採れる季節毎の野菜が分かってきた。例えば、カレーで使用する具材の選び方。」

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―例に挙げてくれたのは、カレーに彩りを与えるパプリカ。

『今まではパプリカを、彩りが良いという理由で入れていたけど、パプリカって1年中、常に採れるわけじゃない。スーパーには年中並んでいるけれど、ずっとパプリカがあるって異様なことだったんだなと。その土地の生産者と話すことで分かったことで。』

―季節ごとに違う旬の野菜。生産者と話すことで分かる旬と、丹精込めた過程がある。

「お金を払うというのは時間を買うということ。カレーを自分で作る手間がもったいないからお金払って、カレーを食べさせてもらう。お米を作る労力が割けないから、お金を払って、代わりにお米を作ってもらう時間を買う。だからお金で解決するってことは自分でやらない代わりに、やってもらった労力をお金で解決する。」

―「労力」と「お金」の交換で成立すること。だからこそ、その労力の一端を担うことで見えてくるものがある。

「過程をすっ飛ばしている。1から100まであるなかの1から98までは自分でできない。だから買う。だからこそ、自分でできることが増えていくとお金をかける場が減って、面白いし、過程が楽しくなってくる。」

―種を蒔き、芽吹き、実が成り、収穫する過程。色鮮やかな記憶が料理という形で表れるとき、何物にも代えがたい幸せに出逢う。

「レトルトのカレーよりも、自分でこだわって作ったカレーを食べた方が楽しい。移動販売も同じで、屋台をやるということはいろんなことを自分でやらなきゃいけなくなるということ。そうして、今までできなかったことができるようになって、楽しいことが増えていく。忙しくはなるけどね。」

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触発しあえる関係性。

―ここまで頻繁に表れた言葉である『出逢い』と『人』。そのこだわりの原点は大学時代の足つぼサークルでの経験に立ち返る。

「その足つぼサークルの代表が言っていた『マッサージはコミュニケーションツールだ。』という言葉が、僕のカレー屋のコンセプトに繋がっているんだけど、足を揉む20分の間に会話が生まれる何百人という人たちの足を揉んでいくなかで、老若男女問わず、さまざまな話を聞いて、自分の考えが広がり、知らないことが知れるようになった。」

―たった20分と思われるかもしれない。しかし、肌に触れ合い、その温度を感じ、言葉を交わす。その対話の積み重ねが紛れもなく今の古市さんを形作った。

「いろんな人との出逢いが、価値観や今の自分を育て、人生を形作っていった。1人では決められないことも、アドバイスや刺激によって決断することができた。だから、人との出逢いはどう生きていくかを決める重要な要素だと思う。」

―自然に触発しあえる関係性。そんな関係性が生まれる場をゲストハウスと寺子屋を組み合わせて作りたいと話す古市さん。現在、平日はNPO法人スマイルスタイル(スマスタ)で勤務する。

「スマスタはソーシャルデザインを行うNPOで、世の中の課題解決につながることならなんでもやる。だから、どんな案件が降ってくるか分からない。じゃあ、ゲストハウスや寺子屋の話が降ってきたとき、自分がその担当になれるように企画力や運営できるような事業計画力を高めておきたいなって。」

―そもそも、さまざまな出逢いを重ねてきた古市さんが職場として「スマイルスタイル」を選んだ理由はなんだったんだろう。

「教育系企業で働いていたときに、兵庫県北部地域を担当していたんだけど、田舎に行けばいくほど、『先生と親の情報だけでしか進路が選べない』、『多様な働き方をしている人たちとの出逢うきっかけがない』、チャンスが都会にいる子たちと全く違うと感じて。」

―チャンスの不平等。気づいたもの勝ちではない、誰もが可能性に触れられる機会のある場を作りたいと考えた。ただ、当時は。

「当時働いていた会社は、僕のイメージするようなキャリア教育とは違ったやり方をしていた。だから、自分なりのキャリア教育が実践できる場所を作るために、独立しようと思ったけど、なかなか事業計画も思ったように書けず、会社を辞めたのはいいものの、全然うまくいってなくて。そんなときスマスタが、ワークコーディネーターを募集していた。」

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迷いが1歩を強くする。

―ワークコーディネーターを通して、さまざまな職業人の悩みに対応する古市さん。その経験が今後の場づくりに大きく活きてくる。

「今の代表(塩山諒さん)と『中高生の支援をしていくんだったら、その先に勉強の先の仕事とか働き方の部分を知ってから、中高生と関わってもいいんじゃないか』という話をして、それなら自分のやりたいことにきっと近づけると。ワークコーディネーターとして『仕事』というものがどんなものなのか考えるために頑張ってみようと。」

―「スマスタのなかでやりたいことをやろう。」その想いに到るまでには葛藤もあった。

「独立が挑戦で、組織に入るということが守りなんだとすると、ある意味では逃げなのかもしれないと。一度自分でやると決めたからスマスタに入って働いていても、時に気持ちのアップダウンはあったし、自分の夢を語れない時期もあって、自信を失うような場面もあった。」

―不意にやってくる焦燥感。ただ向き合った回数が足元を固めてくれた。

「今はもう、踏ん切りをつけてしまった。だけど、今順風満帆に全部のことをやっているというわけではなくて、いろいろ悩みに悩んだ結果の今がある。寺子屋をやりたかったはずなのに、今カレー屋やってるしね。」

―でも、それは遠回りではない。突きつけられた選択肢に対して、もがきながらも答えを出し続けた。

「それはでも、自分のなかで近道なんだと。寺子屋をやるために、そして島の人たちと仲良くなるために、カレー屋をする。ちゃんとしたルートを辿っている。ベストかどうかは分からない。だけど、今のタイミングでできる最善だと思う選択肢を取ってきている。」

―1つずつ、けれども確かな、求める未来の片鱗が見えてきた。

「うん、悩みながら、でも、楽しんで週末カレー屋をやっていて、まだまだ道半ば。マッサージが自分のライフワークになったように、カレー屋も2つ目のライフワークになる。ライフワークがどんどん増えていくと、自分にしかできない仕事が見つけていけるんだろうなって気はしてる。」

―「自分にしかできない仕事」それはまだまだ言語化できない。しかし、だからこそ時間をかけて、人生をかけて、紐解いていく。

「マッサージもできるし、カレーもできますって人は特殊。今まで自分のライフワークとしてやってきたことが重なる先に自分にしかできないことが見えてくると思う。ぼんやりと見えてるんだけど、まだ明確な言語化はできてない。まだまだ探している途中。」

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出逢った人の数が人生を心強くする。
ただ、ときにその強さが抱えきれなくなる日もあるかもしれない。

葛藤の積み重ねの先に少しずつ表れる未来。
そうして実現した現実は新たな夢を触発していく。

旅する屋台『THE○○カレー』
今度はあなたの町で素敵な夢を振る舞ってくれるかもしれません。

【文章:江口 春斗】
【写真提供:古市 邦人】