京都市・桂川のすぐ近くに、その会社はあります。

迎えてくださったのは、
“模型制作会社の社長”という肩書きから浮かぶイメージとは全く違う、
小柄で華奢な女性でした。

彼女が株式会社<さんけい>の社長・勝見文子さん。

社員16人。小所帯ながらも全国に事業を展開する、モノづくりの会社を訪ねました。

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勝見 文子(かつみ・あやこ)

株式会社さんけい・代表取締役。京都市出身。

建築を学んだ後、創業者である父の跡を継いで<さんけい>二代目社長に就任。
多くの博物館模型の制作によって培われてきた技術とノウハウを生かして、紙の模型キット“みにちゅあーと”を軌道に乗せた。

 

“ほんまもん”にこだわる、古建築模型のさんけい

 

株式会社さんけい(以下<さんけい>)は、1963年に現在の社長である勝見文子さんの父、勝見健二さんによって創業されました。

創業当時の事業の中心は、博物館に展示するための古建築の復元模型の制作。<さんけい>が手がけた古建築を実際に見てみると、その精密さに驚かされます。

なんと、大きさ数ミリメートルの瓦の枚数まで、忠実に再現されているのだそう。

 

「日本各地の博物館や資料館に納める古建築模型は、立体の教科書のようなものです。

そのため、何よりも正確性が求められます。瓦らしく見えればOKというわけではないんですね。

しかし、そうやって復元する建物は基本的に現存していません。つまり頼りにできるのはその時代の関係資料や、発掘調査の結果のみ。それらの知識を繋ぎ合わせ、その建築物の設計図を書き起こし、細かく立体に落とし込んでいく作業をします。」

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「正確なのは、見た目だけではありません。模型は実際の古建築と同じように木でできていますし、建築方法や内部の構造までも忠実に再現しています。

そのため、自社で開発した0.5ミリ幅のノミや親指サイズのカンナも欠かせません。“ほんまもん”へのこだわりは、うちの強みですね。」

 

古来の建造物は、職人の手による匠の技術の結晶です。それは、模型の世界でも同じこと。
残された資料、そして磨き抜かれた職人の技術によって、今は存在しない歴史的な建造物が私たちの目の前に蘇るのです。

 

想いを模型に込めて

 

<さんけい>が作っているのは、古建築模型だけではありません。個人の依頼による建物の模型も手がけています。

 

「個人の家や、会社の社屋などの依頼が多いですね。たとえば、『母親へのプレゼントに、かつて子どもの頃住んでいた家の模型を作ってほしい』とかね。

 

こういった模型を作るためには、お客様とのコミュニケーションが欠かせません。模型のスケール(大きさ)などを決めるために、何度も打ち合わせを重ねるのです。

このようなコミュニケーションの中で、『両親が若い頃、この家の庭で花をチューリップを見るのが好きだったらしい』という話が出たことがあります。素敵な思い出だな、と思った私たちは建物の模型の庭に花を咲かせて、お客様の両親を模した人形を設置しました。」

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画像出典:さんけい

「お客様の思いを模型に施した瞬間、その模型はただの“建物の模型”ではなくなります。確かに建物は建物でしかないけれど、そこには人が過ごした時間と空間が生まれるんです。建物って、そういうものなんですよね。

だから、私たちは建物だけでなくお客様の想いや、そこで生まれた物語も形にしたいんです。」

 

立体である模型は様々な視点で見ることが出来ます。上から建物を鳥のように見て懐かしんだり、目線を下げて子ども時代の風景を楽しんだり…。

贈り物として貰った人の喜びは、計り知れません。

 

建物としての形だけでなく、そこで過ごした日々も再現することで、懐かしいあの日に連れて行ってくれる<さんけい>の模型。

これは、建物で生まれるそれぞれの思いに真摯に向き合い、確かな技術で応えたからこそ実現しているのです。

 

手作りの喜びを伝えたい

 

博物館や個人からの依頼によるいわゆる“一点モノ”の模型を多く手がけてきた<さんけい>ですが、全国に博物館や資料館が次々と出来ていくにつれて仕事は徐々に減っていったと言います。

そんな<さんけい>が8年前から販売しているのが、ペーパークラフトでつくる模型制作キット、“みにちゅあーとキット”です。

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画像出典:みにちゅあーとショップ

「今までは私たちが依頼を受けて作る側だったのですが、自分たちが今まで培ってきた技術を生かしながら、“モノづくりの楽しさ”を多くの人たちに知ってもらえる商品を作りたいと思うようになって。ですから、一番のコンセプトは“楽しい”という気持ちです。

みにちゅあーとキットは塗装済みの紙でできたパーツを切り取って、組み立てるだけ。必要なのは、カッターナイフ、ピンセット、接着剤くらいです。

通常のプラモデルのように音も匂いもしませんし、特別な道具も必要ありません。」

 

「模型」と聞くと、マニアックな世界を想像しがち。カラフルな見た目や、紙が生み出す優しい質感が印象的なみにちゅあーとキットは、そんな模型の印象を全く感じさせません。

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画像出典:みにちゅあーとショップ

「モノを作る側としては、ついついこだわりすぎたり、マニアを満足させようとしてしまったりしがちです。

でも、私たちがいちばん気をつけなければならないことは、”いかに簡単にできるか”ということ。実は、難しいモノを作る方が簡単だったりするんです。本当に難しいのは、”簡単で手軽だけど、完成したらきちんと精度があるモノ”を作ることなんですね。 

 

何か作ってみたいけどなかなかできない人に、手を差し伸べるのが私たちの役目。一生懸命作って、『わあ、できた!嬉しいな。見て見て!』って思わず自慢したくなるような、その気持ちを少しでも多くの方に味わってほしいんです。

だから新しく商品を開発するときは、いつも開発担当の人に『もっと簡単にできひん?』『それ、難しくないやんな?』って何度も念を押しています(笑)。」

 

手軽ながらも精巧さが光るみにちゅあーとキットは、多くのモノづくりを手がけてきた<さんけい>ならではの技術、そして「モノづくりの楽しさを伝えたい」という強い思いから生まれているのです。

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模型ファンだけではなく、ジブリファンにも大人気のスタジオジブリシリーズ。
高さは13cmほど。目の前で名シーンが蘇るとともに、そのディティールに驚かされます。

画像出典:みにちゅあーとショップ

 

 

みにちゅあーとを生んだ、柔軟な発想

 

勝見さんがさんけいに入社したのは29歳のとき。絵を描いたり、洋裁をすることは好きだったそうですが、模型には興味がなかったと言います。

 

「私は建築の方に興味があって。模型じゃなくて、“ほんまもん”の方ね。

だから、大学を卒業した後も、別の会社で働いていました。前々から跡を継いでほしいと言われていたんですが、当時は嫌でね…(笑)。でも、29歳のときに、会社のことで困っている父を見て『助けなきゃ』ってふと思ったんです。

それで29歳にして、この会社に就職しました。それからはもう、すごいスピードで仕事を覚える日々。確かに大変でしたが、私は『やる!』って決めたらできてしまうタイプなので、当時は必死にやるのみでした。

でも、今考えたら私も若かったなぁ…。今ならできないと思いますよ(笑)。」

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当時32歳の勝見さん。(写真右)

日本では、女性の社長は珍しい存在です。市場に男性が多い模型業界では、尚更のこと。<さんけい>の2代目社長として、16の社員を抱える勝見さん。女性としてのデメリットは全く感じていないそうです。

 

「私の社長としての仕事は、みんなの良さを生かしてどんな仕事ができるか考えること。力仕事でもありませんし、女性だからといって不利になることは何もありません。

さらに言うと、私には模型制作の経験もほとんどないんです。

模型制作会社ということで、社員には小さい頃から模型に親しんできた者が多いのですが、そうすると 『模型とはこういうものだ』という固定観念が生まれがちです。もちろん、模型制作の経験は商品を作るうえで非常に大切ですが、時にはこの観念が邪魔をすることもあるんです。

私には、この固定観念が全くありません。だから、社員のみんなが『えっ?!』って思うような提案をしてしまうこともあります(笑)。

 

でも、私はこの観念に囚われないということは自分の強みだと思っています。垣根がない状態で考えると、模型の可能性はもっともっと広がると思うんですよね。

これからも、より多くの方に『自分で作るって楽しい!』という気持ちを届けられるよう頑張っていきたいです。」

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勝見さんは「モノづくりには、感性を育て、人間の想像力を豊かにする力がある」と語ります。これからどんな商品を作って、どうやってみんなを楽しませようか、嬉しそうにお話する勝見さんの姿が、大変印象的でした。

 

しなやかな発想で、模型の可能性を広げる勝見さん。

“みにちゅあーとキット”の温かい紙の質感とその精巧さからは、
<さんけい>の優しさとモノづくりへの情熱が伝わってきました。

 株式会社さんけいHP:http://m-sankei.co.jp/index.html

【インタビュー・文:山下紗代子