1【プロフィール】
北海道登別市出身。2009年4月からさっぽろゲストハウス縁家(えにしや)の女将を務める。
ゲストからは「ゆきねぇ」の愛称で親しまれている。(縁家HPはこちら)

仕事に追われる日々の癒しは、旅での出会い

飲食店で働いていたゆきねぇ。休みの少ない彼女の唯一の楽しみは旅行だった。
特に、休みが取れればすぐに計画を立てる程、沖縄が大好きだという。

「空港に着いたときに迎えてくれる、あのむわっとした熱気と、まとわりつくような湿度がたまらなく気持ちいいの。
それに、沖縄に行くと頑張って生きなくていいのかも、無理しなくていいのかもって思えるんです。」

2回目の沖縄旅行で、彼女は初めてゲストハウスに泊まることにした。

「この安さで泊まれるのは怖いけれど、面白そうだなと思って予約したんです。」2

勇気を出して泊まったゲストハウス。
そこは一期一会の出会いに溢れる素敵な場所だった。

「その日に偶然同じ宿をとった人たちが仲良くなって、翌日には一緒に観光したりご飯を食べに行ったりするでしょ。
改めて、旅は素敵なことに溢れていると実感しました。」

ゲストハウスに出会い、ゆきねぇはますます旅に魅せられていった。

思う存分旅をしたい―。
仕事に追われる日々の中で、そう思うようになったゆきねぇは、2004年に仕事を辞めて旅三昧の日々を送ることにした。
大好きな旅を続ける日々。
しかし日常化した旅に、ゆきねぇの心は満たされなくなってしまった。
あんなに楽しみだった旅に、どうして自分は満たされないのか。
自分の幸せとは一体何だろうか。

「答えは、誰かをハッピーにすることでした。
目の前の人が笑ってくれたら私だって笑顔になる。
そういう生き方をすれば一生幸せに過ごせるということに気づいたんです。」

本当の幸せに気づいたゆきねぇ。
そんな矢先、彼女に思いもよらない出来事が起こる。
 

突然訪れた母親の死

母親と2人暮らしだったゆきねぇにとって、母の死はあまりにも衝撃的な出来事だった。

「今後どうやって生きていこう、家は手放したくない…いろいろ考えました。
でも何より、ひとりになったということが寂しくてたまりませんでした。」3

そこでゆきねぇは、友人を誘って自宅でシェアハウスをすることにした。
初めての他人との共同生活も、割り切って考えると楽だったという。

「結局4年くらい一緒に暮らしたけれど、喧嘩は一度もなかったし、
周囲からはレズなんじゃないかと疑われるくらい仲良しでした (笑)。」

この経験から、ゆきねぇはゲストハウスをしたいと考えるようになる。

「いろんな土地に旅行して札幌の良さを再認識したこと、人との出会いの場をつくりたいと思ったこと、
そして何より、私自身が家族のような場所を欲していたんです。
私の家族は素敵なスタイルでは無かったから、おうちのようなゲストハウスで、 ゲストと家族みたいに過ごしたいと思ったの。」

こうしてゆきねぇは、幸せを求めて動き出した。

 物件探しに1年半!ゲストハウスオープンに立ちはだかる壁

ゲストハウスを始めることの大変さについて尋ねると、全部という答えが返ってきた。

「やろうという決心から、法律の勉強、物件探し…とにかく苦労の連続でした。
でもその度、周りの人が手を貸してくれたの。」

旅仲間たちが、やろうという決心がつかないゆきねぇの背中を押してくれた。
ネットだけでは分かりにくかった法律は、ゲストハウスを営む人に学ぶことができた。
しかし最難関は、ゲストハウスをするための物件探しだったという。

2007年頃は、まだゲストハウスの知名度が低い時代。
不動産屋に事業計画書を持って行っても取り合ってくれず、オーナーにさえ繋げてもらえない日々。

 このままではゲストハウスができない―。焦りと不安から、人間不信に陥ることもあった。
疲れ果てたゆきねぇは気休めに、と老夫婦が暮らすマンションの一室を内覧させてもらった。
しかし、これこそが運命の出会いだったのだ。 5

「ここしかない!と思ったの。
まだ手に入れてないのに、私の城だって思ったくらい一目惚れしたんです。
人生頑張って生きてきた甲斐があった、そう思いました。」

 セキュリティは万全、法律もクリアできる―。まさに、夢のような物件だった。
売買物件ということに悩んだが、ついに購入を決めたゆきねぇ。
しかしここで不測の事態が起こる。購入を断られたのだ。

「私が何か事業をするっていう噂が、まわりまわって風俗の店をやるって話に変わっていて、 それで断られちゃったの。びっくりでしょ!」

このままでは、また振り出しに戻ってしまう―。
何としても契約をしたいゆきねぇはマンション管理士に相談し、策を練ってマンションの理事長に直接交渉しに行った。

「噂が覚めた頃、『私の住む家に人を泊めさせてあげる。だけどタダでとはいかないので、お金をいただく。そういうお仕事をします』 と言って理事長の所に簡単な案内を作って持って行ったんです。
そしたら理事長から一発OKをもらったの。
『これはいいねぇ!この間、風俗をしたいって言う人がいたから断ったんだよー!』って言われた (笑)。」  

念願のゲストハウス「縁家」オープン!

こうして2008年の秋に工事を始め、ついに2009年4月、ゲストハウス縁家はオープンを迎えた。 (縁家開業までのゆきねぇのブログはこちら)
この間に、ゆきねぇは旦那さんと運命的な出会いを果たす。

「開業のお手伝いをしてくださいってブログで呼びかけたら、今の旦那さんが駆け付けてくれて。
オープンして予約は入るのか、電気代や管理費が払えなかったら…。
不安でいっぱいだった時を支えてくれたのは彼でした。」

困ったら俺が何とかするから、好きなようにやったらいい―。
そう言ってくれたという。

「1人でオープンできると思ったら大間違いでした。
彼の存在は自分を守ってくれたんです。本当に良い出会いがいっぱいで感謝しています。」

開業してからは、7年前に旅先で仲良くなった5人組や、
10年前に石垣島で4・5日一緒だったカップルが結婚し、偽名を使ってサプライズで訪れてくれたりしたという。

 「これってすごいことだよね。もう嬉しくて泣いちゃって。
来てくれてありがとうって思ったし、やっぱり旅の出会いはたまらないなって思った。」

 開業までの苦労を振り返って、ゆきねぇはこう続ける。

「決心してからオープンまでは2年以上かかったけれど、
その間何が大事なのか、どんなことが必要なのかを知ることができたから、とても意味のある時間でした。
今、縁家をこうやってできているのは、あの時間があったからですね。」  

縁家を、ゆきねぇも帰る宿に

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今年で縁家は6年目を迎える。
ゆきねぇの次なる目論見は、シェアハウスをすることだ。

「ゲストハウスに長期滞在する人や、アパートを借りたいと思っても、なかなか借りれない海外の方やワーキングホリデーの方が札幌でお仕事できるように、シェアハウスを始めることにしました。
まずは縁家に泊まってみて、居心地が良いなと思ったらぜひシェアハウスに住んでもらいたいですね。」

現在、縁家の女将をつとめているゆきねぇだが、これからはスタッフを育てて会社として運営していきたいという。

「最終的には私がスタッフに会いに行く旅に出たいんです。
それを楽しみにこつこつと縁家のベースを作っています。
今は長い長い人生計画の、初めのほうなんです!」  

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ゲストハウスに泊まったことのないあなたへ。
他人と一緒の部屋で寝るなんてありえない?

それでも、勇気を出して泊まって欲しい。
一期一会の出会いが、新しい世界のスタートになる。

「きっと、勇気を出して泊まった人の8割くらいはハマると思いますよ。」

迎えてくれるのは、家族のようなあったかい居場所なのだから。

【文・写真 市川陽菜】