堂本さん1


「借り物とは違う、マジックの本当の魅力を語らせて下さい」

 

ある日届いた一通のメールから、

北海道はススキノ、とあるビルの9階にあるマジックバー「Rubber Raid」にて
不思議なマジシャンに会う機会が訪れた。

 

堂本秋次
1989年6月 5日生まれ。小樽商科大学を卒業した後、2013年11月より、ススキノのマジックバー「Rubber Raid」でハウスマジシャン兼店長を務めている。主な芸風は、クロースアップマジック(少人数を相手に目と鼻の先で不思議を展開するもの)やピックポケットである。専門としては、カードマジック、カードフラリッシュや心理学、言語学が挙げられる。大学時代には、学生演劇の劇団で座長を経験していた。

 

14歳からマジックを始めて、今年で11年目。

趣味としてマジックを始めたのは、中学生の頃、14歳くらいからですね。ただ本当に「カードに集中しよう」って思うようになったのは大学2年生の時です。そして何かのプロになるなら、1つのことに集中したくて、なかでも僕は”特に仕掛けがないトランプで、事前の準備がいらないもの”に力を注ぎました。


■なぜ仕掛けがないトランプにこだわりを?

 

例えば、どこかで「この前やったあれをやってよ」と言われた時に、その言われたマジックができない理由として挙げられるのは、もう一度やると面白く無いから。2回連続でできないから。そして準備ができていないからといったところです。

そのときに準備ができていないから「できない」のは、かっこ悪いですから。誰かに「あれやって」「これやって」と言われてもできるように努めています。

 

■既成品のマジックはやらないとのことですが・・・


やらないです。

 

もし百貨店とかに行けばマジックの製品が売っていますが、マジックを覚えようと思ってそこに行って、自分の持っている技と同じ物があったらショックだと思います。マジックが好きな方とか、マジックバーによく行かれる方に「それ他のところで見た」と言われたくないのもありますね。

 

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▲カードマジックを披露

いまお見せしたものは今年になってから考えたものです。一番若いマジックですね。つい昨日の夜にもうちょっと不思議にできると思って、いまこの場を使って試してみました。こういう風に、少し前に来たお客様が「この前見たあのマジックをもう一回見たい」と言ってくださった頃には、もっと違うものになっていることもあります。

 

■このようなマジックはどのくらいの頻度で作っているのですか?


週に1つか2つくらいは・・・。ですがそれが形になるのは、5つに1つあるかないかです。
月に1個できればいいですね。
どうにも面白く無いとか、あと見た目が美しくなかったり、ごちゃごちゃしているのが好きではないので・・・。


■それがマジックに対する、一種の美学のようなものでしょうか。

無駄のないマジックが好きですね。

例えばお客さんがやることが多すぎるマジックは、あまり好きではありません。マジシャンの側の考え方として、お客様がカードを持っていれば、マジシャンは何もできないので、それが変われば不思議に見えるはずです。ただ、お客様は僕らが思っているほど、カードの扱いには慣れていません。トランプは知っていても、僕らが当然できることは、当然できません。理系の方がフーリエ級数を分かっていても、僕らがわからないのと同じです。そういうのをあまり考えていないマジシャンが多いのではないかと。「自分の色」を持っていない人が多いのではないかと思います。

 

■自分の色とは?


借り物のマジックとか、誰かが既にやったものをコピーしているマジシャンは多いです。アマチュアから、アマチュアあたりのプロには非常に多いです。
でもそれはどうしても、仮の真似事になってしまいます。

真似をするのが悪いわけではなく、オリジナリティというものは複製から始まると言われるように、その意味では無駄ではありません。楽譜を綺麗になぞるのもある種の技術です。自分の曲を演奏するのではなくても。そうでなければ、オーケストラは意味が無いじゃないですか。ですが、多くのマジシャンは練習不足だと思います。カードの扱いが綺麗じゃないんです。

 

■カードの扱いにも綺麗さが?


これは僕も感覚的にしか分からないのですが、この人のマジックは綺麗だなぁとか、この人のカードの動きは綺麗だなぁっていうのを感じることがあります。どうしてそう感じるのかはわかりませんが。ただ、何かを美しいと感じる時には、その扱いには「無駄がない」ですね。構成数、その要素が非常に少ないものを見た時、綺麗だと感じる傾向があります。
複雑な絵より、シンプルな絵のほうが美しい。モノクロ写真の方がカラー写真よりも美しい・・・そう考えると、ちょっとわかりやすいでしょうか。

なので僕はカードの動きをシンプルにしたりとか。あとは、カードを混ぜる音や配る音が好きなので、そちらにも気を配っています。

例えば・・・


なんの音でもないような音、僕はこれが好きです。だから他にも好きな人がいるはずだと思いました。カードを配るときの音のたて方でも、心地よさがあったり、好きな人がいたりする。カードのエッジが手にこすれる音も要素の1つ。

僕はそういうこだわりで、マジックをやることが多いです。音は結構、錯覚の上でも重要なんですよ。

ただ、お客様にそれが伝わるのかどうかはわかりません。でも最近はお客様のなかでも、僕のマジックを見て「綺麗」と言ってくださる人は増えました。美を感じるセンスっていうのは、センシティブかそうでないかはあると思うんですけれど、誰にでもあるものだと思います。僕はその辺の感覚に訴えかけながら、新しいマジックを作ることが多いです。

 

大学時代には、学生演劇の座長をしていた。

大学時代に演劇をやっていて、演劇の演出とか脚本とかの面で、お客さんから「ステージはどういうふうに見られているのか」と考えていたのが、今でもマジックを考える上での要素になっているかもしれません。

座長を2年間務めていましたが、当時は2年生の頃に座長になったので、正直のところ「どうするの!?」ってなっていました。その時の活動可能メンバーは4人だったので、さすがにまずいと思いましたね。上の先輩もいなかったので。最初は4人で小さい倉庫を綺麗にしたところから始まりましたが、僕が座長を退任する際には、部員が16人にまで増えていました。また当時、小樽にできたばかりのバンドステージがあるバーを、お金をかけて借りてお金をとって公演した際には、合計3回の公演で観客動員数150人ほどを集めて黒字で抑えたことがありました。

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■そのまま演劇の道に進もうとは思わなかったのですか?


演劇は面白かったですが、僕自身は、脚本とか演出を考える方が面白いと思いました。
脚本なら、自由なときに書いて、そして誰かにやってもらうとか、どこかに売り込めばいい。
あと役者としての僕の才能はそこまでなかったので。
まあ、マジシャンも役者みたいなものですけれどね。

世の中には マジシャンとは魔法使いを演じる役者のことである 」という言葉があります。

ロベール・ウーダン(Robert-Houdin)という人の言葉なのですが、実際のところ、これには「マジシャンはジャグラーや曲芸師のような者ではない」という意味も含まれているんですよ。

 

■そういえば大学時代は、マジシャンになる前は、何を目指していたんですか?


実は、教授や先生になりたかったんです。英語が少し話せたので、大学では言語学のゼミに入っていました。それで言葉を学ぶ流れから、言葉を教える流れになってみたいなぁ・・・とは考えたんですが、
ちょっとお金がかかってしまうので。お金があったら大学院に進んで、言語学をやっていたかもしれません。ですが、そのとき学んでいたことは、今やっているマジックと関係なくはないです。
こう言うと、こういう風に捉えられるとか。錯覚を生む言葉がいくつかあって。さっきお見せしたマジックの中にも仕込まれています。
僕がこれを言わなければきっとお客様は、そうは思わなかっただろう。というものです。誘導ではなくて、それを補強するものが多いですね。

例えば、カードを1枚選んでもらって、これを真ん中辺りに戻してもらいたいときがあります。

何故ならこの後やりたいのは、軽く混ぜてから、指を鳴らしてみると、選んだカードが一番上にあるというマジックだからです。
ですが「上と下を動かさないように混ぜてるんじゃないの?」とお客様に思われてしまうこともあります。その場合「真ん中辺りに戻してください」というのは綺麗ではありません。指導していますし。まあ、カードが戻ってくれば問題ないのですが・・・。

こういう時は「カードを突っ込んでください」と言うと、自分が「
真ん中辺りに入れて」と言わなくても、カードを突っ込んでくれるのです。

 

■マジシャンという道に進みましたが、周囲から反対は?


あるとは思っていましたが、あんまりなかったです。幸いにも周りの友人には「堂本ならわかるよ」「冗談じゃないんだろ?」と言われました。
一番大変だと思っていたのは、両親の説得ですね。基本的に放任主義の親だったんですが、さすがにOKをもらうのが微妙だと思いました。

そこで、大学2・3・4年の間はマジック以外にアルバイトをしました。大学4年生が終わる前には貯金が100万円ほど貯まっていたので、親には「この100万がなくなるまで自由にさせてほしい」と頼んだんです。結果的に上手く行って、その貯金が続く間に、縁あって、自分のマジックを好きだと言ってくださるクライアントの方に、このお店を用意していただいて、今に至ります。

 

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マジックは芸術か否か。ー芸術的なマジックを目指してー

マジックは芸術か?という話があって、これはマジシャン同士で話すと面倒くさくなるのですが・・・。

ある人は「マジックはそれ自体は芸術的ではない。理由は、マジックはポルノ的だから」と言います。ポルノとは、春画とかのポルノです。たとえば、カードが一枚当たって、お客様がそれに驚かれたのは、自分の選んだカードが当たったからです。当たり前といえば当たり前ですが。カードが当たれば誰でも驚きます。マジックで、カードがあたって驚くのは、それ自体は生理反応です。

■生理反応?

そうです。突然大きい音を出されて驚くのと一緒です。突然カードが変わる、予想外のことが起こると誰でも驚きます。例えば、ヌード写真とかを見て、扇情的な気持ちになるっていうのと、生理反応の面では同じだといわれています。だから「マジックはポルノ的なものだ」と言われるそうです。しかし、そう考えている方でも、ときどき芸術的だと感じるマジックはあるそうです。

芸術的なマジックはあり得るんです。
僕は、そんな芸術的なマジックがやってみたいと思っています。

例えば、女性のヌードであっても、まあ、単刀直入に言って「エロい」と感じる裸体と「芸術的だ」って感じる裸体があります。美術館に行って、ミロのヴィーナスを見た時に扇情的な気持ちにならないのは、あれが芸術的だからです。あれは、ポルノ的とか、エロティックではなくて、そういったものがあるはずなんです。マジックにも、そういったただの驚き(ポルノ的要素)でないものが必ずあるはずです。

だからこそ、僕はカードの扱いとか音っていうものに気を配っています。

 

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