永井さん⑪

第一印象は長身で、イケメン。

インタビュー当日、筆者の前に現れた彼は到着して早々口にした言葉があった。

 

「僕、ソマリアが好きじゃないんです。」

 

あれあれ、インタビューしていいのだろうか。

 

彼を突き動かす原動力は

一体どこから来るのか知りたくなってきた。

 

なぜ、そこまで生死をかけてまでやるのか。

そして、真の国際協力とは、一体なんなのか。

 

 

永井 陽右(ながい ようすけ)

早稲田大学教育学部4年生。2011年に国連が発表したソマリアの大飢饉を機に、多くの難民やソマリア人NGOと交渉を重ねて氏族間対立を乗り越え、日本で唯一紛争地ソマリアに特化した団体である日本ソマリア青年機構(※)を設立。2012年9月、第7回UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)難民映画祭にて史上初となる学生登壇。2013年6月、第5回アフリカ開発会議にてハッサン・ソマリア連邦共和国大統領に直接政策提言と協力を要請。2013年10月、グローバルフェスタJAPAN2013にて登壇。

 

※日本ソマリア青年機構

日本人学生とソマリア人ユースで構成されている学生団体で、ソマリアに対する「理解」、困っている人々を助けたいという「現実化」のもと、“realization”を理念として活動している。隣国ケニアのソマリア人移住区におけるソマリア人若者ギャング更生プロジェクトでは、潜在的テロリストとして弾圧されている彼らを仲間として受け入れ、多くのNGOと協力し彼らの社会復帰を支援している。加えて、サッカーチームへの物品支援、日本の大学への長期留学支援、会議開催などを現地にて実施中。

 

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 ※参考(https://www.google.co.jp/maps/search/%E5%9C%B0%E5%9B%B3%E3%80%80%E3%80%80%E3%82%BD%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%82%A2/@8.029462,38.618896,4z

 

●一番いじめられている他者(国)を救いたい

——誰もやらないからこそ、僕がやる。

 

 

■日本ソマリア青年機構は、永井さんが大学1年生の9月頃に設立されたようですね。

——はい。当時は治安が非常に悪くソマリア支援のスキームが存在していませんでした。ならば自分で構築してやろうと思ったわけです。日本人とソマリア人と対等な関係を作り、そこから困っている人を本気で助けにいく、というのが原初の狙いでした。

 

■設立の経緯を教えていただけますか?

——2011年の国連が宣言したソマリア大飢饉が直接的なきっかけでした。元々、世界で最も困っている場所をどうにかしたいという強い気持ちがあり、まさしくその場所はソマリアでした。

 

ソマリアへの支援スキームを作り上げるため、在日ソマリア人やソマリアのやる気のある若者を探すのに全力で奔走しました。連日Skype(インターネットビデオ通話)を通じて議論をしたのを鮮明に覚えています。彼らの親や友人が紛争やテロで亡くなったりしている状況を踏まえると、相手のことを“理解”するだけではなく、共に状況を改善するべく“take action”をする必要性が痛烈に感じられました。

 

ですので、青年機構という名前にし、積極的にアクションをする団体を設立するに至りました。

 

■大学入学以前から何か自分のなかで問題意識や、今の活動に繋がるきっかけはあったのでしょうか?

——二点あります。「いじめ」と「ツバル」です。正直に言うと、僕は小中学校でいじめをしていました。高校に入りいじめは良くないということに気が付き始めたので、高校ではいじめられている奴の味方になろうという姿勢になった経緯があります。結局のところあまり味方になれていなかったわけですが。

 

二点目は、高2の夏休みに見たツバルという国が沈むというニュースでした。そのニュースを見て、なぜだかわかりませんが「国が沈むなんてやばい!」と強く思ったのです。

 

今思えば、あの時が自分の世界に「他者」という確固たる概念が生まれた決定的な瞬間だったように思われます。ツバルという遠く離れた「他者」を認識したことにより、幅広く「他者」というものを認識し始めたわけです。この世界は僕のものだけじゃないって思ったんですね。だからこそ、自分はいじめをしていたということをしっかりと反省しなければならないと痛切に反省しました。

 

■そこからなぜ、ソマリアにこだわるようになったのでしょうか?

——大学入学当初は、ルワンダという国が世界で最も困っている場所だと思っていました。というのも、世界史の資料集にてルワンダで起きたジェノサイド(1994年にルワンダで起きた大虐殺)を知ったからでした。なので、大学ではルワンダを救う!と張り切っていて、1年生の夏には実際にルワンダへ行きました。

 

しかしながら、実際に行ってみて気づいたことは、ルワンダは世界で最も困っている国ではなかったということでした。事実、ルワンダは1994年のジェノサイド以後、平和な国作りに成功しており、優れた治安と高レベルな経済成長を記録していました。そのルワンダ渡航の帰りにケニアに一人で滞在していたのですが、そこでソマリア難民と接する機会がありました。そこで興味本位でソマリアについて調べてみたら、「比類なき人類の悲劇」と形容されるほどに悲惨な状態だったのです。その瞬間、僕がフォーカスしなければならない場所はルワンダではなくソマリアだとわかり、そこからソマリアをなんとかしようという使命感が生まれました。

 

■ソマリアを世界で一番いじめられている国と認識したわけですね。

——その通りです。ソマリアこそが世界で最も困っている場所だと認識を改めたわけです。ソマリアはどうにかしたい、どうにかしなければならないと覚悟しました。

 

しかし、いじめられっ子はどこにでもいるんですよね。今までに何十回も「なぜ身近にいる人を見捨ててソマリアに目を向けるの?」と質問されてきました。これはなかなか興味深い問いですよね。

 

すべての困っている人を助けるのは不可能ですし、そもそも困っているとは何ぞや?という抽象的な命題にも立ち向かう必要があります。ですから、どうしても自分なりの定義を作り、取捨選択しなければならないわけです。その際に僕が考えるのは、そこに可能性があるか、ということです。

 

■可能性といいますと、それを助けられる可能性ということですか?

——なんと言いますか、助けようと行動を起こす人材が出てくる可能性ですね。例えば、戦争が無い日本でも、ホームレス問題、いじめ、自殺、差別などなど極めて深刻な問題がたくさんあります。

 

ですが、私はそれらに問題意識を持ち、活動している方や団体、運動を少なからず知っています。ですから、私はそこには解決する可能性があると認識しているのです。一方、ソマリア、シリア、中央アフリカ共和国などは、誰もアクセスすることができず、政府や国際機関を含めて満足に行動することができていません。すなわち、そこでは可能性が極めて少ないと思うわけです。だからこそ僕がやろうと思うわけです。

 

 

永井さん圧縮

 

●決断の時はいつも2つの亡霊が浮かぶ

——過去の後悔を肩に背負って、もう僕には「覚悟」ができた。

 

 

■ソマリアの問題や自身の経験談など、現地で感じたことを聴かせてください。

——問題は山のようにあるのですが、僕が最も深刻に感じている問題意識は、テロと迫害ですね。2012年の暮れに正式政府が20年ぶりに誕生しましたが、実際は名ばかりの政府で十分に機能していません。紛争やテロを防ぐにも、しっかりとした政府が必須となるので、引き続き深刻な状態は続くと思われます。

 

また、ソマリアでも隣国のケニアでも自爆テロは頻発しています。自爆テロは戦争と違い動機も行動も突発的な性質が強く、防止するのが非常に難しいです。それらを受けて難民や移民のソマリア人が各地にて不条理な迫害をされています。治安も非常に悪いので、外部からのアクセスも悪く、本当に難しい問題だと思います。

 

■自爆テロや迫害などいろいろな問題があるんですね。永井さんが、学生でそのような問題を少しでも解決しようというのは、先ほどもおっしゃっていたように、やる人が他にいないからだと思いますが、そのモチベーションは一体どこから来るのでしょうか?

——たとえソマリアが世界一危険だとしても、それはソマリアから目をそらす理由にはならないと思いますし、また、「学生だから」ということもその理由にはならないとも思います。「学生にしかできないこと」なんてものも考えればたくさんありますしね。

 

モチベーションに関しては、ここまでだらだらと述べてきた使命感ってやつが大きいですね。これまで実に様々なことを背負ってきたので、僕にはもう逃げる道はないですし、後々後悔したくないので逃げる気もありません。僕にしかできないのなら全力を賭してやってやるっていう気持ちでいます。

 

■なぜそれほどまでに強い覚悟を持っているのですか?お話を聴いていると真面目すぎる気もしますが。

——何か大きな決断をするとき、いつも必ず二つの亡霊が浮かんできます。それは先ほど言及したいじめをしていたという後悔と、高校時代でのバスケットボール部の引退試合での後悔です。相手は強豪だったのですが、僕が相手のエースを終始ディフェンスしていればもしかしたら勝てた試合でした。そしてこの二つの後悔はおそらく死ぬまで僕を苦しめ続けるものです。だから、もう二度とこのような一生続きうる後悔は味わいたくないと強く思っています。非常に消極的でストイックすぎる生き方だと自分でも思いますが、その二つの亡霊が消えるまでは、おそらくこのように生きていくのだなと感じています。

 

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●地球で起きることはすべて自分事として捉える

——大事なことは、「自分を世界のどこに位置付けるか」、ということ。

 

■ソマリアや隣国ケニアで様々な活動を行っている姿を拝見させていただきました。現地ではまさしく生死を彷徨う出来事にも遭遇したこともあるかと思います。現地活動のお話をお聴きしたいです。

——まず初めに言わなければならないことは、ソマリア国内での活動は非常に難しいということです。私は去年の秋に、例外中の例外としてアフリカ連合ソマリアミッション部隊にサポートされソマリアの首都モガディシュに行きましたが、基本的に国連コンパウンドから外に出ていません。それほどまでに治安が悪い場所です。滞在二日目にはモガディシュの中心地にて30名余りの方が亡くなる自爆テロがあり、モガディシュに住む友人の兄弟が犠牲になっています。ですから、あまりにも厳しい環境です。滞在期間中に国連コンパウンド内で数名のユースNGOの代表たちと面談し協力方法を議論しましたが、現在は調整段階です。インターネットを利用したラジオ放送や間接的教育支援などは現実可能性があり協議中ですが、ソマリアで直接何かをするというのは、今後数年間は有り得ないでしょうね。

 

というわけで、我々の活動拠点はケニアのソマリア人移住区となります。そこでは実に様々なプロジェクトを実施しています。現在最も力を入れているのが、Movement with Gangstarsというシリーズプロジェクトです。これは所謂ソマリア人若者ギャングを我々の仲間にし社会復帰させようというプロジェクトで、潜在的テロリストの出現予防と地域の治安改善が狙いです。ソマリア人のギャングと対話の場を設けられるのは、私達しかいないので、まさに「私達にしかできないこと、学生だからできること」と言えるでしょう。非常に有意義なプロジェクトです。

 

現在はギャングのカウンセリングを専門とするソマリア人の医療組織やNGO、政府関係者等と提携して実施しています。加えて、ソマリア人の若者の日本への長期留学支援プロジェクトや物品提供を通じたスポーツ支援、ユースカンファレンスの開催など様々なことをしています。来る早稲田大学の入試に合格さえできれば、来年1名のソマリア人が早稲田大学に4年間留学しに来ますよ。

 

Movement with Gangstarsではテロリストになりかねないギャング達を社会復帰させると仰いましたが、具体的にどのようなアクションを取るのでしょうか?

——まずは対話の場を作ります。これはギャングに精通しているメンバーや彼らのカウンセリングをしているドクターを通じて構築します。その後、参加型ワークショップ形式で、ギャングをやっている理由、メリットデメリット、なぜ辞めることができないのか、などなど様々なことをじっくり議論します。ギャングの中には辞めたいけど辞めることができない人もたくさんいるので、彼らを私達の仲間として社会変革の主体者と仕立てあげます。これこそが積極的な社会復帰だと確信しています。テロ以外の抗議方法を共に考え、共に行動していく、ということが大事なのです。

 

■日本での活動はどうなんでしょうか?

——各種イベントの開催・参加やソマリアに関する勉強会、100ページを超す現地渡航活動報告書等を通じて、他の学生団体に刺激を与えることに主眼を置いています。

 

今日の学生国際協力ブームにおいて、他団体さんを強烈に刺激し、活動をより高次なものにしていくのはうちの団体にしかできないことだったりします。事実として議論などの場では多くの方が刺激を感じてくれています。

 

あとはもちろん啓発活動などもしています。最近では、弁護士からの要請を受け、ソマリア沖での海賊事件で拘束されたソマリア人全4名に対し、面会や本・食料品提供などの支援を行っています。

 

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■今のインタビューでももちろん、永井さんの中では「覚悟」という言葉がキーワードだと思ったのですが、「覚悟」をもつためにはどうしたら良いでしょうか?

——難しい質問ですね。僕が偉そうに言えることではないですが、やはり、自分がどれほどのものを背負っているかということ、かつそれを認識しているかということ、それに加えて、自分を世界のどこに位置付けるか、ということが一つ大事なことのように思われます。

 

良くも悪くもイマジネーション力が強いので、地球で起きる人間が絡む事象は全てそれなりのリアリティを持って自分事として捉えられます。恐らくそこが僕の強みの一つなのだと思います。これもまた真面目すぎるだけのようにも思われますけどね。

 

他人事と捉えずに、自分事で捉える。それってなかなかできないことですよ。

——やはり先ほど述べた二つの亡霊が関係してきます。いじめられている人を認識してしまったら、もうそこに無関心ではいられない。目を背けると亡霊達が僕を攻撃してきますからね。ソマリアなどに目を向けているということで、慈悲深く聖母みたいな人間と思われがちですが、自分が後悔したくないという気持ちが一番大きいです。もちろん困っている人を助けたいという気持ちはありますが、それよりも自分のエゴが強いです。

 

 

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●“realize”できる人間になれ!

——この活動を個々人の原点にしてほしい、それが僕の願いです。

 

■ソマリアでの活動を通じて、永井さんが伝えたいことはありますか?

——伝えたいことはたくさんあるのですが、山本敏晴さんという僕が最も尊敬する国際協力のレジェンドのような方がいらっしゃいまして、その方の言葉に集約されているように思います。

 

 

「『本当に意味のある国際協力』とは、自分がやりたいことをやって『自己満足にひたる』のでも、自分に専門性があることをやるのでもなく、『それ』が必要なことであれば、自分がどんなにやりたくないことでも実行し、専門性が必要ならそれを身につけていこうと努力してゆく、『姿勢』を言うのである。」

 

 

この言葉は常に意識していますね。これが全てだと思っています。最初に述べたとおり、僕はソマリアが好きではありません。気候や風土がとても厳しいです。ですが、この言葉の通り、「やりたくないことでも、それが必要なことなら、専門性が必要なら、身につけていく」、それが真の国際協力だと思っているのでコミットし続けています。多くの人にこの言葉をしっかりと考えていただけたらと切に思います。この言葉としっかりと向き合ったら覚悟というワードは自然に出てくるはずです。

 

■この言葉は痺れますね!まさに永井さんの今を表しているのだと思います。

——まさにそうですね。あの言葉のように生きていけたらと思います。そうすれば、二つの亡霊も少しずつ成仏してくれるかなとささやかに期待しています。

 

代表を4月で降りたということで、団体のメンバーの皆さんやこれから入ってくる方たちに伝えたいことなどありますか?

——この団体では文化的に「覚悟」ということを強く意識して活動しているので、ここで活動をすることによって自分の人生観は大きく変わるかもしれません。理念の最後のほうに書いてあるのですが、これですね。

 

将来“realizeできる人間”へと成長するための、両国メンバーの原点となるように位置付けること。

 

後輩にも常日頃から「realizeできる人間になれ」と言っているのですが、その具体例一つを挙げますね。去年の秋に当団体に所属していた女の子が一人辞めたんです。彼女は主力メンバーだったのですが、アラビア語専攻ということを活かし、シリアにフォーカスするシリア研究会なるものを東京外国語大学にて設立し現在そちらの代表として精力的に活動しています。これはまさしく当団体の活動が原点になっているわけです。その子は「ソマリアは永井さんがいるから安心しています。だから私はシリアに目を向けます。」と言ってくれました。感動しましたね。以上のように、当団体の活動を「個人の原点」にしてくれたら、本当に嬉しく思いますし、この団体を設立してよかったと心から思います。

 

■最後に、永井さん個人の今後の目標を聴かせてください。

——人間はいつか死ぬじゃないですか。できれば不老不死を狙いたいところですが、恐らく僕の人生も残り70年ほどでしょう。その少ない時間の中で、何を意識しようかと考えると、今まで再三言及してきた亡霊の話になるわけですね。

 

とにかく一生引きずるような後悔は二度としたくありません。背後霊は二つで十分です。私の場合は、この後悔したくないという強い気持ちが「困っている人を助ける」ということに帰結するというわけです。

 

大学卒業後はイギリスの大学院でテロリズムや紛争解決を学ぶ予定です。将来的にソマリアが平和になったら、今度は別の困っているところにコミットしようと思っています。僕が生きている間に世界から諸問題が無くなるということはどうも想像できないですが、もし自分の中で納得ができたら、つまり、自分の肩に乗っかっている亡霊が消えたら、存分に好きなことをしたいと思います。イタリアなんかでのんびり暮らしたいですね。それまでは真の国際協力を目指して、覚悟を持って生きていきます。

 

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生半可じゃない「覚悟」。

 

これほど強い信念を持っている人がいるんだ。

 

人が『生きる』意味、

自分の存在意義、

彼のそれを聴き、深く考えさせられた。

 

この広い世界で自分は世界に何を残せるだろうか。

 

 自らの生死をかけて、

今日も彼は「困っている人」のところへ歩いていく。

 

 

 

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Twitter…@you___27

 

日本ソマリア青年機構HP…http://jsyo.jimdo.com/

 

 

【インタビュアー・文・写真…木村 優志