何かに対して熱い思いを持つことは、 そう簡単なことではありません。

そこには経験と、決意がありました。

静かな彼の、教育に対する思いは

青い炎のようでした。

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-No.292- 龍谷大学 文学部哲学科教育学専攻 阪野将

 

 

フリースクールとの出会い

まず、阪野さん自身とても教育に対して熱心に活動されていますよね。そのきっかけを教えていただけますか?

実は僕の兄が一時期不登校になり、その期間だけフリースクールに通っていたんです。

阪野さん自身がフリースクールに通われていたわけではないのですね?

僕は兄の送迎について行くという、暇つぶしの感覚で行っていました。それでも、僕が顔を出す度にスタッフの方に可愛がっていただいて、様々な遊びを体験できる機会をもらいました。

なるほど。不登校の子でもフリースクールには行けるんですね。

中には合わない子もいますが、それでも大概みんな通うと言いますね。

それはどうしてなのでしょうか。

兄が通っていた所は、館のスタッフが子どもの全てを認めてくれるんですね。自分の居場所がそこにはあるんです。

なるほど、ありのままの自分を受け入れてくれる環境がある暖かい場所なんですね。それでは、阪野さんにとって身近な存在だったフリースクールの経験が今の夢につながっているのですね。

そうですね。僕、もともと高校では理系だったんです。
当時は建築系なんかいいなあと思っていたのですが、フリースクールのこともあり、教育にも関心があって悩んでいたんです。
そんな時、夜中にフリースクールの友だちから電話があって、

いいこと思いついてん、学校作ろう」

と言われたんです。

…とても突然すぎる提案ですね。

彼は僕と同じような境遇で育って来ていているんです。
実は、僕の母親は精神的な病気を持っていて、そのために自分を否定されて育ってきました。
そのことで精神的に沈んで落ち込んでいて、人生が楽しくなかったんです。
だから彼の言うことに乗っかろうと思いました。

そして後日話を聞いて、僕の想いも話して、これやったら本気でやっていけると思ったんです。
そこから教育に対して真剣に考えるようになりました。
それで大学に入って教育学研究会というものを立ち上げたんです。

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フリーハグをする阪野さん。彼はいろんな活動を行っている。

全ては、目標のために

どうして教育学研究会を立ち上げたのでしょうか。

教育の勉強をしたいと思って大学に入ったのに、1回生のうちは一般教養ばかりでおもんないなあと感じたんです。
それにやろうと思えば模擬授業も自分たちでできるじゃないですか。
早いうちからやっておこうと思っていたので入学して3日目にあったフレッシャーズキャンプで皆に声をかけて始めました。

わあ、行動がとても早いですね(笑)

実はこれ、兄の影響なんです。
兄は近畿大学の心理に行っているのですが、兄も心理学研究会というのを自分で作ってやっているんですね。
それを見て、羨ましい、僕もやりたいと前々から思っていたんです。

お兄さんも研究会を作っていたんですね。

僕がやっていることは人の真似事が多いんです。
誰かがやっているなら僕にだって出来るんだからやっちゃえ、という感じなんです。

確かに前例があるとやりやすいですよね。そういったきっかけが身近にたくさんあって羨ましいです。

やっぱり、きっかけが無いと人は動けないと思うんですよ。
教育について勉強をしたいという人がいても、一人ではできません。
でも、暇して家で寝ている時間を過ごすならちょっといい時間を過ごしたいじゃないですか。
だから教育学研究会を立ち上げたんです。

素敵な考え方だと思います。

結局、僕はやりたいことをやっているだけなんです。
だって、今できることはそのまま誰かの為にはならないじゃないですか。
だったら、僕たちからまず幸せになったらいいと思うんです。

なるほど。それでは今行っている活動は自分を大切にするためにしているんですね。

はい。実は40歳までにフリースクールを作ろうと彼と決めているんです。
早ければもっといいのですが、とりあえず40歳という目標を掲げています。
それまでは自分たちが出来ることをとことんやろうということになっています。

GROWINGさんに所属しているということでしたが、どんなことをしているんですか。

実は一緒にフリースクールをやろうって言ってきた奴はすごく自由なんです。
だから僕が運営のノウハウを勉強する必要があります。
それに、研究会を立ち上げて行き詰まった時に、自分のやりたいことをやるには運営の方法を勉強せなあかんなあと思ったんです。

GROWINGではそういったことを勉強できる環境が整っているのでとてもありがたいです。

大学もそういったことを考慮して選びましたか?

はい。フリースクールを作りたいと言っても、すぐに作れるわけでは無いですよね。
実は、兄や電話を掛けてきた彼も不登校の子たちの支援に興味があって臨床心理士を目指していているんです。
一方、僕は普通の学校で育ったので、教育現場でも何かできることあるんちゃうかなあと思っているんです。
現場の中に入ってどういうことが問題なのかちゃんと見てみようと思っているので、今は教員を目指しています。

なるほど。中から問題を見てみようっていうことはとても大事なことだと思います。
では、夢を叶えるために阪野さんが今できることはなんだと思いますか?

まずは教育を知ることだと思っています。
そして3・4回生になったら全国各地のフリースクールをまわろうと考えています。
近畿圏だけでもたくさんあるので大変だとは思いますが、

「フリースクールってなんやろう」
「教育って何が問題なんやろう」

ということを考えたいんです。自分が実際に教育の現場に入って、内側から知りたいと思っています。

実際に今までフリースクールのイベントに参加するなかで、子どもたちから学んだことはありますか?

実際に不登校になってフリースクールに通っている子どもたちと話をすると、学校の見え方が違っていたり、学校はで学べないことを勉強していたりするんです。
それに、フリースクールには小学生から高校生がいて、様々な年齢の関わりの中で勉強を教えたりもしているんです。

じゃあ高校生が面倒を見ていたりするんですね。

そうなんです。ほんまにみんな友だちみたいなんです。
そういうのって普通の学校では経験できないことですよね。

たしかに。なかなかできない体験ですね。

それに関して一つ気づいたことがあるんです。

不登校が原因でフリースクールに通っている子どもはコミュニケーション能力がとても優れているんです。
自分より小さい子でも年上の子でも、友だちのように接することができるんです。
僕はそういったことに違和感はなかったのですが、友だちに聞いたら、

「上回生との接し方が分からない、中学生と何喋ったらいいか分からない」

とか言うんです。僕は「普通に喋れるやろ」と思うんですけど、普通の学校に行っていたらそういう経験がなかったりするんですね。
だから、子どもが怖いという同級生もたくさんいるんです。

そう考えると、フリースクールに通っている子どもたちのコミュニケーション能力はとっても高いですね。

スタッフも退職されてからボランティアで来てくださる方が多いので、年配の方が多いんです。
僕らで言うおじいさんおばあさん世代です。
年配の方の体験談から学ぶこともたくさんあって、「そんなことしてたんか!」と驚かされることもあります。
学校では学べないことがフリースクールにはたくさん詰まっているんです。

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自分の存在を認めてくれる場所を作りたい

それでは阪野さんはフリースクールをどんな形にしたいと考えていますか?

兄が通っていた所と同じように、自由なところでありたいですね。
いつ来ても子どもの居場所に、そして社会にちゃんと戻っていけるような場所にしたいですね。

それでは本当の最終目標は、皆がちゃんと社会で生きていけるということでしょうか。

僕が一番思っていることは、精神的に落ち込んで自分の生きている意味を見失った時に、死という一線を超えることを考えて欲しくないんです。
それは自己肯定感や自信、自分の存在価値が分からなくなってしまうからそこまで考えてしまうのかな、と思っているので、そういったものが育つ場所を作りたいという想いはあります。
自分はいてもいい、生きていてもいいんやなと思える場所を作りたいですね。

阪野さん自身もそこまで追い詰められてしまったことはあるのですか?

あります。でも、どん底まで行っても案外死ねなくて、どうしようもないなって思いました。
でも、そこまで行ったからこそ、今、何でも出来る気がするんです。

どん底を経験したからこそ、世界が拓けたんですね。子どもが幸せであるために阪野さん自身、どんな大人になりたいですか?

僕自身はそこまで幸せで無くていいかなと思っています。
全部のことを認めてあげられる心の広い大人がいっぱい増えたらなと思います。

いろんな生き方や考え方を認めて、いろんな行動ができる社会が理想なんですね。

 

 

「親や兄のいる環境があったからこそ今の自分がいるんです。」

彼は今日も夢に向かって動き出します。

自分という存在を認めてもらうために―。

【文・顔写真 市川陽菜】