「人の役に立つ仕事がしたい」

そう言っていた彼女は現在、作業療法士を目指して勉強している。

 

作業療法士とは、障がいを持った方に対してのリハビリを行うことによって、その人の社会復帰を手伝う仕事である。

 

確かに、人の役に立つ仕事だと思う。

でも、どうして作業療法士なの?

 

その理由を聞くためにインタビューをお願いした。

 

「私、ちゃんとした話できないよ?」

 

 

そう言うけれど、夢と真剣に向き合ってるってこと、私は知っているんだから

 

あかね1

‐No.257‐ 大阪府立大学 総合リハビリテーション学部 作業療法学科(現地域保健学域総合リハビリテーション学類)3年

佐野あかね

人の役に立つ仕事がしたい

出来ないことを、出来るようにするためのお手伝い。

 

―まず、作業療法士になろうと思ったきっかけは何だったの?

 私はずっと人の役に立てる仕事がしたいと思っていたんだけど、中学校の時に薬剤師を勧められたことがきっかけで薬剤師を目指していたの。だけど高校に入って、部活が楽しくなって力を入れていたらいつの間にか勉強についていけなくなっちゃったんだよね(笑)。特に数学で挫折してしまって、薬学部進学を諦めたの。それでどうしようか悩んで、学校で配られる職業紹介ブックを見ていたら、薬剤師のすぐ近くに作業療法士を見つけて。読んでみたら、なんだかピンと来たんだよね。その時に初めて作業療法士の存在を知ったんだけれど、詳しく調べてみることにした。そしたら四年制の大学に行ってもなれる職業だって分かったし、医療系だから人の役に立てる仕事だしいいかもしれないと思った。きっかけは単純だったの(笑)。

 

 ―確かに作業療法士って人の役に立っているということが本当に実感できるお仕事かもしれないね。

 でも、作業療法士については大学入ってから知ったことが多かった。私にとって、「障がい者」は目に見えて分かる障がい、いわゆる身体障がいしかイメージ出来ていなかった。でも、身体障がいの他にもいろんな障がいがあることを学んで、私が思っていた以上に障がいを持っている人がたくさんいるということを知ったの。「障がい」って目に見える障がい者だけじゃないということ、作業療法士はそういう障がいを持った方に対してのリハビリをしているということに改めて気付かされたんだ。

 

 

障がいは「その人」のことではない

その人自身を、見てあげたい。

 

―目に見える障がいの方が世間には広く認知されていると思うけれど、大学に入ってから障がいに対するイメージは大きく変わった?

 どんなに障がいを持っていても、病気や障がいはその人が決してなりたくてなった訳ではない、ということを考えるようになったかな。それまでは街中で車いすの方を見かけた時に、周りの人も私自身も邪魔だなって思うことがあった。それに、障がいある人は大変だなって純粋に思うこともあった。限定的だけれど、精神疾患の方が起こした事件を見て、何でこんなことをするんだろうと思ったりもした。

 最近では、お父さんが子どもを川底に叩きつけて殺してしまった事件があったけれど、お父さんには多分精神疾患があったと思うんだ。でも世間ではやっぱり子どもを殺してしまったお父さんに対する社会の非難がとても強い。実際子どものことは可哀想だと思うけれど、でもお父さんだって精神疾患になりたくてなった訳ではないし、病気のことで苦しんでいたかも知れない。早くに病気だって分かっていたら、何とか出来たんじゃないかなとも思うんだ。もしかしたら事件を起こさずに済んだかもしれない。

 

―なるほど。それって作業療法士に進んだからこそ得た視点だと思うな。

 病気や障がいってなりたくてなった訳じゃないんだから、その人自身を責めたり否定するのではなくて、その人達も私たちも過ごしやすくするためには何ができるんだろうって考えるようになったと思う。その人の障がいを見るのではなくて、その人が出来ない事に対して私たちには何ができるんだろう、どういうことをしてあげたら生活が上手くできるんだろうっていう視点を持つようになったかな。

 精神疾患の人は怖そうっていうイメージが強いんだけれど、実際はそういう人ばかりじゃない。この前の実習先が精神科だったんだけど、学生の私を気遣って優しく声を掛けてくれたり、ご自分のことをお話してくれたりと、本当に良くしていただいた。確かにちょっと妄想があったり、コミュニケーションがうまく取れなかったりする人もいる。だけど、なりたくてなった病気じゃないというところで彼ら一番が苦しんでいる。今は薬も進歩しているし、治療法なんかも長年の研究で分かってきているから大体の人は発症しても症状はだいぶ良くなる。機能的には元に戻すことだって出来る。でも、その人達が元の職場に戻ったり、家族と同居するのが難しいのは、職場の人達や家族の理解が得られないといった社会的バリアがあるからなんだよね。だから私達はこの人にはこういうことがちょっと難しいのですが、こうすれば出来ます、とか、こういう関わり方をしてください、といったサポートもするの。精神疾患に限らず、知識的なことも含めて当事者さんの周りの方に障がいのことを理解して貰えたら、それだけでも生活環境は良くなるだろうし。

 

―障がいのことを理解していれば、何かあった時の対応もできるし、周りの方も生活しやすくなるよね。

 やっぱり当事者さんのご家族が大変な思いをするのはどの障がいでも同じで、個人的なボランティアで関わっている所で、たまに当事者さんのご家族とお話できる機会があってお話を聞くんだけど、ある日突然障がい者になってしまうと共に家族は「介護者」に変わってしまう。当事者自身はもちろん、その家族も一気に生活が変わってしまうの。それに対する戸惑いがあるだろうし、もしかしたら仕事を辞めなきゃいけなかったり、通院しやすいところに住まなきゃいけなかったりする。環境ががらって変わってしまうことで心的ストレスを抱えてしまったり、誰にも相談できずに辛くなって社会から閉じこもってしまう方もいる。そう聞いて私はそうやって必然的に社会の認知が薄れてしまっていると思ったし、何より介護者がそれまでの生活を送ることが出来なくなってしまうなんていけないことだと思った。病気になってしまった人のリハビリをするだけではなくて、そのご家族のサポートできたらいいなって思ったの。今は、同じ病気を抱えている方の家族会なんかもあるんだよね。それに私たちが「こういう方法があるのですが、試してみませんか?」と声を掛けて、介護者が閉じこもらずにいられるお手伝いができたらいいなと思っているんだ。

 

―患者さんだけではなくて、ご家族の方へのサポートもするんだね。でも、目に見えない障がいって分かりにくいから、たとえ家族でも「あれ、なんか性格変わったなって」思われちゃうことも多いと思うんだけど…。

 実はそれが結構多いの。例えば、脳卒中で倒れてしまったお父さんが退院して帰ってきたらすごい暴力振るうようになってしまったことで、家族は「お父さんの性格が変わってしまった」と感じてしまう。でもそれがもとで障がいに気付くことが多いの。

 患者さんの中には普通に働いている方もいるんだけど、我慢することが難しかったり、抑えが利かなかったりする方もいる。例えば、電車で肩がぶつかってしまって、少しでも嫌だと感じたら物凄い勢いで怒鳴って殴り合いの喧嘩までしてしまったり、謝った人でも追いかけて怒鳴りに行ったりしてしまうんだよね。普段大人しい人でも、少しイラッとすると大きな声で怒鳴ったり、可愛いと思ったものをすぐ触ってしまったり、つまらないと思ったらすぐどこかへ行ってしまったりと、自分がしたいと思ったことをすぐ行動に移してしまう方もいる。まだまだたくさんあって私も勉強中だけれど、本当に多様で難しい問題だと思うの。

 

―今聞いただけでも種類がたくさんあるよね。それだけ種類があるし、目に見えないものだから、私たちは個性と捉えちゃうことがあると思う。

 そうだね。少しでも障害についての知識があればもしかしたらこういう障がいなのかも知れないとか、病気だったらしょうがないかという気持ちになれるかも知れない。

 でもこれまでたくさんの障がい者と関わってきて、障がいばかりではなくてその人自身を見てくれたらいいなって思うようになったんだよね。障がいがあるからと言ってその人が全部悪い訳ではなくて、障がいがあってもその人の良い所がちゃんとあるから、それを活かして出来ないこと、難しいことを出来るようにするためにはどうしたらいいかを考えてあげたいな。

 

―そうか、それを本人に伝えることでリハビリに前向きになるだろうし、いろんなことに挑戦してみようって思えるんだね。

 うん。例えばもしはるちゃんが脳卒中になって麻痺のせいで身体が上手く動かせなかったり、喋る事が上手に出来なかったりしても、「脳卒中のはるちゃん」ではなくて、「明るくて優しいはるちゃん」として見ていたい。それでその人に合ったリハビリ、はるちゃんだったら水泳が好きだから、水泳を使ってリハビリが出来ないかなって考えるの。

あかね2

―私のことを理解してくれた上でそうやってリハビリを考えてくれるとなんだか嬉しい!

 本当?それは良かった(笑)。これは実習先の先生に言われたことなんだけれど、勉強会や研究会でいくら効果のある治療法・リハビリの方法を教えて貰っても、はるちゃんがやりたくない、難しいから嫌だって思っていたらそのリハビリには意味がないの。

―もし、絶対良くなるからって言われても毎日10km走るリハビリは嫌かな…。

 でしょう?だからどれだけ効果があると言ってもそれを無理矢理させるのはどうかなって思うんだよね。その人のモチベーションもあるし。だからこそ、その人に合ったリハビリを考えてあげなきゃいけないなって思うんだよね。例えばはるちゃんは水泳が好きだから、週に一回泳げるようにしよう。そしてプールで泳ぐには何が必要なんだろうって考える。まずはプールまで行く必要があるから、バスに乗るなら自分の行先と料金を調べて計算して払うことが出来なければならない。もし歩いて行くなら道を調べる必要があるし、地図を見ながら行かなければならないよね。一人で行けなかったら家族やヘルパーさんについて行ってもらう必要がある。

 その人がしたいことを実践するために必要なことは本当にいろいろあるけれど、それが出来るように私たち作業療法士に何が出来るんだろうって考えることが大事だと思うんだ。

 

―なるほど。水泳に至る過程まで考えてサポートするんだ。リハビリ内容だけ考えるんじゃなくて、それをする為には何が必要か、作業療法士ができることは何か、という視点を持っているんだね。

 それに、障がい者さんと関わって、出来ない事を一生懸命にやろうとしていたりとか、私たちと同じようには出来ないけれど違う方法で頑張っているのを見ると、自分まだまだだなとか思うし、そういうやり方もあるんだって、学ぶことも本当に多い。周りの大学の友達を見ていても皆頑張っていて、ガイドヘルパーの資格を取得して休日に一人でお出掛け出来ない障がい者と一緒に映画を観に行ったりする子もいる。子どもが好きな子は子どもに特化した病院にボランティア行ったり、作業療法士同士でやっている勉強会に行っている子もいる。そういうのを見て自分も刺激を受けて、何しようかなって考えて自分の出来る範囲で興味のある事をやりたいなと思ってやっているんだ。

 

社会復帰のお手伝い

「ありがとう」が、原動力になる。

 

―周りの友達の頑張りや、ボランティア先であかねがしていることを通して、将来はどんな作業療法士になりたいと思ってる?

 私は精神科の作業療法士になりたいと思ってるの。体は元気なのに心の病気のせいで生活しづらくなってしまったり、社会から閉じこもってしまったりと、精神障がいのある方は目に見えない分その人自身が苦労することがたくさんあると思う。だから、心の問題がある人に対して、元の生活に復帰できる可能性があるなら私がお手伝いしてあげたいなって思ってる。傷害事件を起こしてしまった人への治療を行なっている作業療法士になって患者さんを治療して、社会復帰をして貰いたいなって思ってるの。

 

―あかねにとって作業療法士の一番の喜びって、患者さんが社会復帰することなんだね。

 うん!その人が自分の生きたいように生きたり、その人に合った生活が出来るようになってくれたら作業療法士をやっていて良かったなって思うと思う。

 学校の実習先で統合失調症の方に出会ったんだけど、そこで一番心に残っていることがあって、妄想幻覚がひどかった人がいたんだけど、妄想幻覚を考えないために何か他のことに集中することが大事なの。そこで作業療法士が手芸を勧めたんだけど、そのお陰で妄想幻覚がなくなったんだって。その時にだから私は作業療法士さんに救われたんですよって感謝されたの。私はそういう作業を通して病気と上手く戦っている人がいることを学んだし、何より作業療法士に対して感謝してくれる人がいることが本当に嬉しかった。実際にありがとうと言って貰えたことはこの時が初めてで、本当に嬉しかったの。

 

―作業療法士って本当に素敵なお仕事だね。

 そう言ってくれる人もたくさんいて嬉しいし、それが私の今のモチベーション上げる言葉になっているかなって思うんだ。この先大変だとは思うけど、頑張ろうと思えるの。

 

 

「人として生まれた以上はしたいこともあるし、病気のせいで出来なくなっちゃったなんて悲しい。

私はそういう人たちの手助けをしたいの。

楽しい事は楽しんでもらいたいし、やりたいことはやって欲しいと思うから、

そのためのお手伝いを出来たらいいなって思うんだ。」

 

―ほらやっぱり、夢と真剣に向き合ってる。

 

 【文・写真:市川陽菜】