kibichan 

 

『あなたと建築したい』
このフレーズを掲げて活動している、建築女子大生がいる 。

 

吉備友理恵、通称きびちゃん 

この日は設計課題の提出日だったらしく
徹夜明けの疲労困憊でインタビュー……大丈夫か?

  

「私がスゴいんじゃなくて、建築がスゴいんよ!」

 そんな私の心配をよそに
彼女は目をキラキラさせて、語り始めた。 
 

 

一体、建築の何が
彼女を突き動かしているのだろうか。

 

 

吉備 友理恵(Kibi Yurie)
大阪府生まれ。ミライを創る、建築業界の広告塔として活躍中の女子大生。
関西建築サークル♯(http://sharp2011arch.blog.fc2.com/)を立ち上げ代表を務める傍ら、建築新人戦2012代表補佐や兵庫建築学生団体など関西の建築に関わる学生には脅威の認知を誇っている。そして大学では起業家精神育成ゼミでビジネスについても学んでいる。

 

 

建築は“自分のエゴや何か残したい”では建たない、社会を巻き込まなければいけない

建築との出会いと、惹き込まれるその魅力。 

 

——建築業界には女子の少ないイメージがありますが、きびちゃんが建築を選んだ理由は何だったのですか?

いわば消去法だったんですよね。高校では勉強も中の上くらいやったんで、やりたいことが見つからないような状態だったんです。文転ならできるという理由で理系を選んで、家族に勧められるがまま薬学部を目指していました。

でも大学を調べるようになって、建築学科の募集要項を見たら『建築は総合芸術です。芸術の感性が有る人を求む。』みたいなことが書いてあったので、『勉強そこそこ、芸術そこそこの奴はここしか行くとこあらへん!』と思って選びましたね(笑)。

 

——まさかの消去法(笑)。何か芸術も関わっていたんですか?

もともと小学校で先生に「歌で芸大に行きなさい!」と言われていたんです(笑)。ただ母が音大卒ということもあって、母自身が大変なこともあったからこそ私に音楽の道は進めさせたくなかったようで止められて、道がパッと切られちゃったんですよね……。

そうして中学になると、次は日本の総理大臣賞を取ったような美術の先生に出会って、「絵で芸大に行きなさい!」と言われたんですよ(笑)。それも親からは勉強していってほしいからこそ止められ、絵の道も消えていきました。

 

——才能の塊ですね(笑)。そうして建築の道を選んだわけですが、ここまで建築に惹き込まれるに至った理由があったのですか?

大学一回生の時に、毎年仙台で開催される卒業設計日本一決定戦で、私の考えがガラッと変わりました。その年は復興ということもあったので思い切って仙台まで行ってみたんです。

それまでは “何か残したい精神”で建築を選んだ節もあって、自分の生きた証のような……いわゆる中二病ですね(笑)。そうしてデザインリーグの展示を見ていく中で、私が『これすごいな!いいな!』と思った作品が、全然賞に選ばれなかったんですよ。その時は疑問でいっぱいでした。

 

——なるほど、デザインリーグではどんな作品が評価されていたのですか?

そうして1位になった作品が、私の建築の見方をガラッと変えたんです。それは、“津波で浸水して住めなくなったような地域の人たちが、想いを馳せられるような祈りの丘を建てる”という建築でした。

私はこうして初めて『建築は自分のエゴや何か残したいでは建たない、人の共感を呼び、社会を巻き込まなければいけないんだ!』と気づいたんです。誰かのために建てるものでなければ建たないと知り、一気に『建築めっちゃおもしろい!!』と鳥肌が立ちましたね。

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保育所を設計する課題なのに、えらい育児に詳しくなりました(笑)

“いろんな情報”を“うまいことを組み合わせる”総合芸術が、建築なんです。

 

——“誰かのために建てるもの”と知り、建築の魅力に惹き込まれたんですね。

そうですね。そもそも課題をやるにも、私の大学はただ設計するのではなくて社会背景を与えられるんですよ。そこから問題を推測して、現地調査して、歴史なども調べて、さらにその先を予測したり、関係性を見いだす……情報の洗い出しをするんです。やから保育所を作るなら、保育所とはそもそも何なのかから調べたり、育児本やらいろいろ読みまくったので、えらい詳しくなりました(笑)。

『自分が持った問題意識に対してどうカタチにできるか』考え、手を動かし続け、いろんな情報をうまいことを組み合わせるからこそ、総合芸術と呼ばれるんやと思うんです。私もアイディアやデザインでは戦える自信がありますが、建築はもっともっと複雑で歴史や文化など社会的な側面も知った上で考えなきゃいけないし、とりあえず考えるカテゴリが多いんです。やから今日も作品を提出して、凹んできました(笑)。

でもその中で、プロデュースしていくこともまた、自分の強みやと気づけましたね。

 

——幅の広い仕事なんですね……そんなに奥が深いなんて全く知りませんでした。プロデュースという点でもこの気づきがキッカケで、“関西建築サークル♯”の代表になったのですか?

そうですね。この時期にタイミングよく、関東の建築サークルから『関西の学生と交流したい』と声がかかったんです。そこで関西での交流イベント運営を手伝い、結果的にものすごく盛り上がったんです。これが『関西建築サークル♯(シャープ)』立ち上げのキッカケです。そうして代表を誰がやるかとなった時に、必然的に私が……(笑)。

だからこそ、何かしら問題意識を持っているけれど動けない建築学生が各大学に居ることも分かったんですよね。

 DSC_0034(設計課題を見せてくれました。センスがさすがです…!)

 

海外では『え!あなた建築家なの!すごいわね!』と、すごく評価されるんですよ

近すぎて気がつかなかった、社会を変える建築のチカラ。

 

——問題意識といいましたが、現在の建築業界には何か問題があるのですか?

なんといっても、建築業界はお先真っ暗なんですよね……。まずは海外と日本で、建築家というものへの評価のギャップが大きいんです。海外では建築家って「え!あなた建築家なの!すごいわね!」というようにすごく評価が高いんです。それなのに日本では評価が低く、建築家だと言っても「ふーん」というかんじですよね。

そして……、建築ってどんなイメージがありますか?

 

——いきなり質問 (笑)!うーん、やはり劇的ビフォー○フターのようなイメージがありますね。

ですよね。私もその番組は世の中に建築を広めるプラス要素かと思っていましたが、実はマイナスだったりするんですよ。こうして取り上げられている“匠”は、建築家ではないこともあるんです。建築を学んでいる人たちにとっては、無名な人ということもあります。建築士は資格であって、私のいう建築家というのは“社会を変えるパワー”のある人、ってことなんです。

それなのに世間には“住宅に小細工ができる人=建築家”というイメージができ、“社会を変えられる”というイメージからどんどん離れていってしまっているんですよね。

 

——きびちゃんのいう『建築が社会を変えられる』が、正直分からないんですよね……。具体的に建築が社会を変えた事例はありますか?

建築が社会を変える=建物が変わると人の行動が変わるというイメージです。身近にありすぎて気づいていませんが、私たちは毎日を建築の中で生きているんですよ。

身近なところでいくと“駅とまちが一つに”なった大阪ステーションシティー。

平成11年より構想された産・官・学が連携して開発を進め関西都市再生の起爆剤にしようという動きです。インフラのすぐ近くに建物をくっつけて、さらに駅と街を活性化させているんですよね。このモデルは東京・大阪を始め、どんどん各地に広がっていますし、社会を変えている動きの一つだと思います。20年前にはこんな建物はありませんでした。街の景色は建築によって変わり、人の行動も変化するんです。 

 

——なるほど。そう考えたら建築は社会を変えられる大きな役割がありますね。

みんなは“建築は社会を変えられる”ということを知りません。だからこそ、社会的に必要とされていない現状があります。それに加えて、建築に関わる人たちは伝える力、自己アピールというかプロデュース能力が乏しいんです。自分達の建築の能力がすごいパワーを持っているということに気づいていないことも、家を建てることはそこに住む人の人生に関わっているという誇りに気づいていないことも……問題点を語り出したらキリがないです(笑)。

だからこそ、伝えていきたいんです。私が自分を“建築業界の広告塔”と言っているのは、正直大きく出たなって感じですが(笑)、建築のよさを世の中に伝えることで、私の大好きな建築家や建築に携わる様々な人がもっと活躍して欲しいという気持ちにありました。

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建築業界の、広告塔になりたい

あなたと私で、一緒に作っていきませんか。

 

——どうして伝える使命感を感じたのですか?

そこそこ有名な建築家さんでも生活は豊かでないことを知りましたし、私が団体をやっていてもお金がネックだったり、資金というものに問題意識を持ちました。でも、この現状を打破するほどの影響力が、自分には無かったんですよね。いくら周りの人たちに真実を伝えたくても届かないし、巻き込めないことに無力感を感じました。

その中である起業家の方に「それを解決するのは、ビジネスだよ。」と言われたんです。起業と建築には共通点があり、どちらも「社会をより良くしたい!」など何か問題意識を考えて、そこに起業家では事業、建築家では建築物を通してアプローチしているんです。こうして、社会にいい影響力を与えるためという視点でビジネスに目を向けるようになり、勉強しています。

 

——たしかに、そう考えたらビジネスとアプローチが同じなんですね。これからどう動いていきたいのですか?

今の私には、まだまだ建築を語れるほど知識も経験もありません。やから展示会や講演会、イベントのキュレーターとして関わるなどしながら、学生建築プロデューサーという立場の確立を目指しています。こうしてどんどん、建築を外に開いていきたいですね。

建築業界の“中の人”にも“外の人”にもこのおもしろさを伝えていきたいと思っています。だって、建築を“おもしろい”と思って見たら、世界が変わるんですよ?特に仕組みを変えるチカラやったり、パワーやアイディアを持っている人に建築の良さを伝えていきたいですね。

最近では、他学部の子達が私が建築建築うるさいので(笑)、驚くくらい『建築ってすごい!』と思ってくれるようになりましたし、「県立美術館を建築として見たらめっちゃやばいと思った!」と言ってくれたり、「きびちゃんに出会って建築好きになった!」と言ってくれたり……。今まで意識していなかった人たちが建築を意識し出すという手応えからも、伝えていく価値はあると感じました。

 

——では最後に気になっていたことを。きびちゃんのキャッチコピーである『あなたと建築したい』には、どんな想いが込められているんですか?

私を、建築の擬人化だと考えてください(笑)。ここでいう“あなた”は、相手の持っている能力だったりコレというものの擬人化なんです。やから『私(建築)とあなたで関わっているんですよ、一緒に何か創りませんか?』という想いで、「あなたと建築したい」と言っています。

私は“クリエイティブな人=能動的な人”だと感じていて、その人達がこれからの未来を作っていると思うんです。だからこそクリエイティブ同士で、おもしろいことを創っていきたいんです!そしてその中で建築って面白いなあと思ってもらい、私に出会った人からその連鎖が起こって行けばいいな、と考えています。

そしていつかは、「建築っていいよね!」という雰囲気が、お医者さんってすごいよねと同じくらい、世の中に当たり前としてじんわりと意識されたら素敵だなあと思っています。

  

 

自らを広告塔と名乗る、そのプレッシャーは計り知れない。

それだけ彼女は建築を愛し
建築のもつ社会を変える力を伝えたいのだろう。

日本に建築の魅力が広まるには
長く、険しい道のりになるかもしれないが

ただひとつ、言えることがある。

 

吉備友理恵に出会い
私の目に見えていた世界は、確実に変わったのだ。

  

Facabook:吉備 友理恵(Yurie Kibi)
Twitter:@MelloGaz0ta

 

【文・写真:三宅瑶