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医療の発達により多くの命が救われるようになった一方で、介護者の負担は増え、介護中心の生活を強いられることになってしまうことも多い。

家族としての時間

一人の人としての時間

レスパイトハウスは、介護から離れ、こういった時間を取り戻せる場を提供している。

「一度こちらに来てください」

取材を申し込むとそうお返事を戴いた。

訪れた「奈良親子レスパイトハウス」は、初めて来たのにとても懐かしく感じるあたたかい場所だった。

 社団法人奈良親子レスパイト 

        代表理事 富和清隆さん(写真左)    事務局 川口雅嗣さん(写真右)

 

医療の枠にも、福祉の枠にも当てはまらない子どもホスピスとの出会い

富和先生が奈良で親子レスパイトを始めたきっかけを教えてください。

富和先生:私自身、青春時代を奈良で過ごしたので奈良の良さはある程度知っているつもりですし、社会に奈良の良さを十分に伝えるには自分自身が評価し、それを生かすことが大切だと思ったので、最後は奈良で働いて、自分が奈良で学んだことを生かしたいと思ったことがきっかけです。

京都から奈良に戻る前年、子どもホスピス「ヘレン・ダグラス・ハウス」の創始者、シスター・フランシスが来日されました。その際彼女や障がいを持った子どもたちとそのご家族、そしてスタッフたちとお話をする機会があり、私はここで初めて子どもホスピスの存在を知り、命が常に危険にさらされている状態で生活・成長している子どもたちに対して、その人生の質を高めるような経験を提供する子どもホスピスの重要さを考えさせられました。そして奈良に帰るのであれば、奈良にふさわしい子どもホスピスから刺激を受けた活動を始めたいと強く思いました。

そしてもう一度シスターが来日する機会があったので、このような活動に関心を持つ人が出てきて欲しい、地域のみなさんと協力して在宅支援をすすめたいと思い、東大寺での講演会をお願いしました。そして奈良小児在宅医療支援ネットワークと親子レスパイトを立ち上げました。

 

―子どもホスピスと親子レスパイトの違いは何でしょうか。

富和先生:日本では「ホスピス」と聞くと、ほとんどががん患者の末期を心地よく見送りするという場所と思われていますが、子どもホスピスはレスパイトはもちろん、看取りとその後の家族のケアも行いますが、静かに亡くなる場所ではなく、生命力が弱くても生き生きと生きる、そういう経験を味わう場所なんです。

ところが運営費に年間5億円もかかっており、これが全て寄付で賄われています。子どもホスピスはイギリスだけで40箇所、つまり200億円近い寄付を集めていることになります。子どもホスピスから学ぶことはたくさんありますが、それだけのお金を寄付文化でない日本で集めるのは難しいですし、毎年何億円も集めないといけないとなると、お金を集めるためのスタッフが必要になってしまいます。

そこでお金がかかる施設や人件費など、これらに協力してくれる人をボランティアで募れば、お金を集めることに一生懸命にならずに済みますし、運営者にとってもこの経験は役に立つと思ったんです。

川口さん:お金を集めることも大切なのですが、物を集めることも大切です。一回の親子レスパイトの開催に必要なもの、例えばお昼に使う食材などを持ってきてくれたら、それは確実に食事として提供されるといったように、お金よりも物の方が使い道が明確で、支援してくれる方も自分がどのように協力できているのかが分かりやすいんです。

富和先生:例えば食材を持って来ていただいたら、自分がその場にいなくても、今日は私の作ったものを食べてもらっているということを想像できますよね。このように目に見える、思いやすいかたちを大事にしたいと思っています。

 

障がい者はミッションを持ったプラスの存在

―レスパイトハウスを運営する上で大切にしている事は何ですか?

富和先生:まず、レスパイトとは普通、病院や施設が子どもを一時的にお預かりして、家族、つまり介護者が休憩するというものなのですが、ここのように施設も整っていないところに預かってもらうのは親子共々、非常に不安で休憩どころではないんですね。それならば親子で一緒に休憩してもらおうということにしたんです。

休憩という言葉は消極的な意味で捉えられがちですが、ここでは介護する/されるという立場を忘れて生きていることの意味、子どもであること、親であること、家族であることの喜びを再確認し実感するという積極的な、「命を取り戻す時間」にして欲しいんです。

それにレスパイトハウスは東大寺の旧職員宿舎を借りて運営しています。古い建物なので段差や敷居は多いですが、その段差や敷居をみんなで協力して乗り越えることも大切だと思っています。いろんな危険があるかもしれませんが、親戚のおじさんのところに遊びに行くような感覚で来て欲しいんです。施設はバリアフリーですし、どんな人でも平等に来ることができますが、同時に写真の許可や、責任の所在などのサインが必要になりますよね。こういった福祉下において、障がい者は一方的にサービスを受ける存在になってしまい、我々を学ばせてくれるミッションを与える権利が奪われていると思うんです。それにみんながいて世の中なんだ、ということから目を背けている気がします。

でもレスパイトハウスには利用者さんにお友だちとして来てもらいたいんです。とても不平等なケアかもしれませんが、ミッションを持った方に来ていただいています。もちろんプライバシーは大事にしますが、顔を隠して写真を撮ることはしません。プライバシーを公開していくことが、お願いしているミッションなんです。

障がい者というのは負の存在ではありません。ミッションを持ったプラスの存在なんです。

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―だからコンセプトの一つに「善き友に会う」を掲げているんですね。

富和先生:善き友とは、この世の本当のことを気づかせてくれる人、教えてくれる人のことを意味します。仏教用語では「善友」つまり菩薩様のことです。菩薩様というのはお願い事を叶える存在ではなく、会って大切なことに気づかせてくれる存在なんです。

最初は、子どもが大変な病気になって人生がぐちゃぐちゃになってしまったと思っている親もいると思います。でもここに来ることで、親御さんに、この子がいたから私の人生は変わった、人として成長できたんだ、と感じていただいて、本当に大切なことは何かということを再発見して欲しいと思っているんです。だからそのきっかけを与えてくれる子どもは善き友であり菩薩様でもあります。たくさんの善き友に会えることは本当に幸せなことです。

 

ボランティアにとっても再発見の場でありたい

―たくさんの善き友に会って、ボランティアの皆さんも本当に大切な事を学ぶことができると思います。でも、関わりたいと思っている人の中には、自分に何ができるかわからない人もたくさんいると思います。

富和先生:私は皆さんに、自分に何ができるのかということを考えてもらうことも大事だと思っています。「協力したいけど医療関係者でもないし、私には何もできないのではないか」と思っている人もたくさんおられますが、お掃除をしたり食事を作ったり、エプロンや雑巾を作ったりするだけでもいいんです。自分に何ができるかを考えることも大切ですし、それは我々も一緒に考えていきたいと思っています。

川口さん:市川さんにも申し上げましたが、まずここに来ていただきたいです。会員になってこの場を見て、自分に何ができるかなってボランティアさん自身に考えていただきたいですね。

富和先生:たとえば研修会の企画をしてもらったり、印刷をお願いしたり、どんなことにでも関わることができるわけです。会計を見てくれる税理士さんも、顧問弁護士をやってくれる弁護士さんも、皆ボランティアなんです。

川口さん:普通のボランティアのように、そこにいって何か指示を出されて、それをボランティアでやろうということではないんです。何かしてくださいとは言いません。自分ができることをしてくれたらいいんです。

富和先生:自分に何ができるのかということを回数を経るごとに学んでいただいて、関心を持っていろいろ考えてもらって、それをみんなで話すことでアイディアを出したり、そんなこともボランティアでできるのかということを感じて欲しいんです。親子レスパイトはボランティアにとっても自分の可能性を再発見する場所でもあるんです。

 

―親子レスパイトには庭の管理をする庭プロジェクト、食事を管理する食プロジェクト、建物を管理する建物プロジェクトがありますが、新しいプロジェクトを始めるそうですね。

富和先生:今、新しく「博物誌プロジェクト」というのを始めています。これはコンセプトにある寧楽(なら)に遊ぶということですが、奈良には大仏様以外の以外にも自然とか、歴史、動植物がたくさんあります。「生きとし生けるものがことごとく栄えんことを」と仰った聖武天皇は、人間だけじゃなくて、動植物までもに目がいっていたんです。ここから見える木々も、飛んでいる蛍もトンボもみんな生きとし生けるもの、そういうものと一緒にいるということを彼は意識していたと思うんです。それを私たちも感じて、この川にはどんな生き物がいるんだろう、この木はどんな木でどんな歴史が詰まっているんだろう、そういうお話をすることでこの自然、歴史を学ぼうと思っています。

これにもいろんな方に協力してもらっています。最終的に、博物誌マップを作るというのが、今年の課題です。で、作りながら学んでいくんですね。これは薬草になるとかならないとか…楽しいでしょう(笑)。

―また来たくなりますね、発見があって。

富和先生:そうでしょう。それが寧楽(なら)に遊ぶであり、善き友に会うということです。そしてそれをみんなに発信したいんです。例えば親子レスパイト散策コースをつくっておいたら、親子レスパイトコースにはこんな道で、こんな木があって、こういう景色があって…となり、観光客が来るかもしれないじゃないですか。観光客を集めたり、それでお金を儲けようとか、そういうことは考えていませんが、親子レスパイトに興味を持ってもらえたら、世の中にはこういう人がいるんだ、頑張っている人がいるんだと感じることができたらその人も豊かになりますし、善き友にも会えるわけです。

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よりたくさんのの想いをつなげたい

―これからの親子レスパイトハウスの課題を教えてください。

富和先生:レスパイトハウスは最低200万円の運営費で回したいなと思っています。私は奈良の親子レスパイトだけが有名人や、日本の企業全部の寄付を集めたいとは思いません。むしろどこでもできるような、こじんまりとしたモデルを作って、この規模ならうちでもできるんじゃないか、と皆さんが思ってくれるような活動をしたいんです。そうすれば他の地域でもやっていけるのではないかと思っています。

川口さん:200万円だったら、1000円の会費を2000人分集めるというのが目標です。「自分にもできそう」と思ってもらえれば、手を上げる人もいるのではないかと思っていています。それに、200万円というお金を10万円ずつ20社から集めるよりも、1000円を握りしめて持ってきてくれる人を2000人集める方ができそうな気がしますよね。

富和先生:それにその方が意味がありますよね。これも聖武天皇の考えで、全国民が協力して少しでも、一握りの草、一掴みの土を持ってくることが知識、善友だと思いなさい、善き心だと思いなさいと言っているんです。レスパイトハウスも同じで、例えば10万円ずつ20社から集めても、担当者はその時何かを感じるかもしれません。でも担当者なんてすぐ変わっちゃうし、20社の社員全員がレスパイトに想いを致すわけではないと思うんです。それよりも、1000円を2000人分集めることで本当にたくさんの人の想いがレスパイトハウスにつながるわけです。これこそが我々のやり方だと思います。だからと言って大きな会社に社会貢献してもらえることはとてもありがたいので、ぜひお願いしたいです。だけどより多くの人に想いを致して欲しいので、まずは会員を増やしたいと思っています。多くの人に関わってもらいたい、それが目標であり、課題です。

 

「お金をもらっていると、それ相応の義務が生まれてしまいますよね。でも、ここでは「これだけのことをしなければならない」ということはありません。来たい人が来て、やりたいこと、自分の出来ることをしてくれたらいいんです。ボランティアさんが私たちの活動に賛同して、楽しみにしてもらってこそレスパイトハウスは成り立っているんです。」

 

あなたにしかできないこと、再発見しませんか?

 【インタビュー・写真:市川陽菜