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「理系の学生は、あんまり発信しようとしないんです。」

そう聞いて、『伝えたい』と思った


日本薬学生連盟公衆衛生委員長を務め

薬学生の世界的な会議にも出席するなど

とても『まじめそう』な小路さん

 

しかしその正体は

固くなりがちな医療キャンペーンに風穴を開ける

『異端のエンターテイナー』だった

 

 

 

もっとおもろいこと、やればいいやん

医療がまじめだって、誰が決めたの?

 

 

——どうして薬剤師を目指そうと思われたのですか?


それは小学生の頃の話になりますね。僕の実家は日用雑貨も扱うローソクヤさんで、僕は「大人になったら家を継ぐ!」と言っていたのですが、幼心に『だった らもっと儲けたい』と思ったんですよね(笑)。

 

そこで親から、何気なく「じゃあ、お薬を売ったらどう?」と言われたのが、薬剤師を目指すようになったキッ カケですね。

 

 

——現代の日本で、医療に関する社会的な問題点があれば知りたいです。

例 えば、サプリメントや健康食品の偽情報を信じ込みやすい人が多いです。健康食品にしても薬にしても、自分で考えて選ぶことが大切なんです。

 

日頃の自分の体 調、身長や体重、血糖値や血圧など、自分のことを知ることによって、体調が悪い時や健康を改善したい時、自分で薬を選んで『軽医療』を行う、『セルフメ ディケーション』が大事になってきているんです。

 

偽情報に騙されず、薬剤師などの専門家に聞いてみる事が大事だと思います。

 

——それはやはり世界的にも重要視されているのですか?

世界的にも、医療費の削減ということで注目されていますね。

 

僕は2011年度に、世界の薬学生が500名集まる国際薬学生連盟(IPSF)の世界会議に参 加し、世界の様々な公衆衛生活動の発表を聞きました。今年はアジアの薬学部生が500人規模で行うアジア太平洋薬学生シンポジウムで、セルフメディケー ションをテーマに自分の健康を知ってもらおうというキャンペーンを行う予定です。


今の日本は、やっと世界に発信できる公衆衛生活動を行っていますが、世界の活動内容を知った上で『もっと日本の薬学生なら活動が面白くなるんじゃないかな?』と思いましたね。

 

 

——日本だからこそできる面白さとは、具体的に何かキャンペーンしはったのですか?

日本のコスプレは世界でも人気ですよね?世界の薬学生は献血推進運動を競う“VAMPIRE CUP”というプロジェクトがあったのですが、ヴァンパイア という割には、ただ献血の呼び込みをお揃いのTシャツで行う活動が世界の薬学生の主流でした。

 

そこで僕は日本で、ヴァンパイアのコスプレをしながら献血を しようと思いました。吸血鬼が、吸血されているんです(笑)。


するとそのシュールさが話題になり、とても手応えがあったんです。そこから『自分たちがしたいコスプレをして楽しく献血しよう』というキャンペーンを行ったところ、100人以上参加してくださり、やはり大きな反響がありました。

 

少子超高齢化社会が進むと、今まで献血を受けていた団塊の世代の方々も受けられない年齢になっていき、献血率が低くなります。血液は命の薬になるんです。 血液が足りないために命がなくなってしまうことを避けるためにも、若い世代からも関心を高めるアクションを起こしていきたいと思います。

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生きやすい社会を作ることが、キャンペーンなんです

キャッチーなだけでは、伝わらない。

 

 

——とても楽しそうですね!他にも何か大学でとんでもないPRを行ったとか……?


大学の学祭で、『タコ焼きに大麻やケシの種をふりかけて売る』屋台を出しました(笑)。これは医薬品の適正使用について喚起するキャンペーンなんです。ケ シの種自体に薬物として働く成分がなく、大麻の種も発芽しないものを使用しています。ちなみに大麻やケシの種は七味にも入っているんですよ。


「なんやこれ!」と学生の興味を引き、大麻と聞くだけで「危ない」というのではなくて、何が危ないのかを伝えることで、薬学生内部から『何が危険なのかを理解しよう』という啓発を行いました。

 

 

——薬物の名前を聞いただけで相当なインパクトがありますよね。私も大麻は危ないイメージでした。

現 代では『薬物=ダメ絶対』ということが一番押し出されていますが、先入観だけのダメ絶対で思考回路を停止してはいけないと思うんです。売られている医薬品 でも必要以上に飲み過ぎると体調が悪くなるように、薬の適正使用を訴えたいと思い、大麻タコ焼きの販売に踏み切りました。


例えば麻薬の一種として知られるモルヒネは、医療用モルヒネ鎮痛剤として使われているのですが、昔の人は「モルヒネは危ないやろ!」と思ってしまうんです よね。モルヒネの作用は、痛みが出ている人には痛みを押さえる作用があるのですが、イメージからモルヒネを使うことを嫌がり、ガンの痛みに苦しんだまま亡 くなる方もいらっしゃるんです。

 

本当だったら少しでも痛みを和らげて、したいことを出来たかもしれないと思うと、とても悲しいですよね……。

 

 

—— 一概に危険とは言えないのですね。さまざまな人の視点に立つ大切さを感じました。

キャンペーンを行ううえで、『予防・検診・治療』の全てを網羅していない本当のキャンペーンにならないんです。

例えばHIVの場合、もしHIVの予防が先行して『HIV陽性になると恐ろしいことになる』と脅してしまえばHIV陽性者の人にとって生きづらい世の中に なってしまいますよね。検査で陽性になってしまったら人生が終わるわけでもありませんし、治療中の患者さんのためには偏見をなくしたり生きやすい社会を作 ることが大切になってくるんです。

 

そのためにも感染しないことだったり、死ぬ病気ではないことを伝えることが必要ですよね。

 

 

——薬剤師さんがそういった医療のプロモーションを行うイメージがありませんよね。

実は今まで、薬剤師や薬学生が患者さんに触れることがタブー視されていたんです。在宅医療で、患者さんの薬の管理をするサービスなどもあるのですが、薬を 飲んでいるのか飲んでないのか確認するためでも、薬剤師には血圧を測ることすらしちゃいけないと思ってたんです。患者さんの体を把握する能力は必要なのだ と切実に感じますよね。


僕たちも学生ではありながらも、社会的な意味があり、自分たちが学べ、そして面白いことがしたかったんです。献血もブースも地域の人に近いところで出来る ことであり、学校の授業ではできないことなんです。パンフレットを配ったり、言うだけのキャンペーンなんて、そんなの誰も目に留めないんですよね。

 

 

——知らないことだらけでした……。もっと学校でも教えてくれれば良かったのにと思います。

そ うですね。僕たちも薬の適正使用について子どもたちにも教えたいと思い、学祭で『おかしな薬屋さん』というブースを設けました。

 

子どもたちは白衣を着て薬 剤師役をしてもらい、ビジュアル的に薬の適正使用について理解できるゲームを行いました。参加してくれた子どもたちにアンケートを取ったところ、幼稚園児 でも適正使用を理解し、薬剤師の仕事を知ってくれました。


このキャンペーンの効果については、学生で初めて学術発表をすることになり、社会人に訴えていくためにも発表できて良かったと思いますし、学校薬剤師さんに働きかけていけるキッカケになりましたね。


病院の小児病棟でも、薬を飲むのが嫌だったり、飲む理由が分からない子どもたちはたくさん居ます。そんな子たちにも、薬の必要性などを遊びながらゲーム感覚でできる提案をしていきたいと考えています。

 

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薬剤師の可能性を、開拓したい

「なりたい職業は?」「薬剤師さん!」が当たり前の日本に。

 

 

——エンターテイメントを創り出す小路さんは、なんだか今までのイメージと違う薬剤師さんになりそうですね。

 

僕 は、人を心から元気にする薬剤師になりたいと思っています。実家が商店を営んでいることからも地域性の素晴らしさは身にしみて感じています。だからこそ地 域の人たちを分かっていられるような医療従事者となり、自分が関わるその地域がいかに楽しいか自慢できるような、素晴らしい医療をしているか学会で発表し たいと考えています。そうすることで薬剤師への新しい提案ができますし、子どもたちへの教育にも浸透させたいと思います。

 

現在は『薬剤師募集中』など呼びかけないと、雇用のないような現状がありますが、薬剤師や看護師の広告を出さずとも教育的に地域で受け入れられるようなものになってくれると思うんですよね。

 

 

——今までの活動に通じる想いは何ですか?

薬学に携わる学生から変えていきたかったんです。自分の興味があるところに飛び込んで行く人が多いですが、僕は自分とジャンルの違う学生との交流が大切やと思います。人から刺激を受けたら、それがおもろいキャンペーンを作るための要素になっていくんですよね。


そして僕は今も、将来も、「自分はこの仕事があるからそれは出来ない。」なんて言いたくないです。学生は自分たちで学べないと「法律のせいだ。」「大学の カリキュラムのせいだ。」と不満を言いますが、僕は「無かったら作るチャンスやん!」と思うんです。


そこで諦めるのではなく、やりたいのだったらみんなを巻き込んで、薬学で未開拓なことをしていきたいと思っています。

 

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ただでさえ『無関心』になりがちな医療の世界

私たちはわずかな知識で

『ダメ絶対』の壁を作っていたのかもしれない

 

自分も守れず、誰を守れるのか

 

心から明るく元気にしてくれる薬剤師さんは

日本をも元気にしていくのだろうと思った

 

 

Facebook:小路 晃平
Twitter:@ko_o3

【文・写真:三宅瑶】