彼の紡ぎだすピアノの音色は、聴き手の心を離さない。にぎやかだった場も彼の音色が鳴り始めると一瞬で静まり返ってしまう。誰もを虜にしてしまう演奏はど のようにして生まれるのか、どんな心持で演奏しているのか、そしてこれからの未来に託すものとは。

【インタビュアー:佐伯綾香】

 ピアノとの出会い

 

ピ アノを習い始めたのは小学校1年生の頃です。自分からやりたいと言い出したらしいです。記憶は全くないのですが(笑)でも、本気で練習しだしたのは中学校 2年生の頃です。それまでは野球や水泳もやっていたので、あまり熱心には取り組んでいませんでした。だから、進歩も遅かったんです。小さいころは遊びで サッカーも大好きでしたね。自分はいつもゴール前にいて、ラストに押し込む役でした。1タッチするだけ、省エネ派なんです、(笑)実はピアノは中学でやめ るつもりでした。小1からぐだぐだと続け、結局はやめるタイミングを逃してしまったんです。高校受験に向けての進路指導の時に悩んだ末、ピアノを続ける決 心をしました。


 ICU高校での経験

 

高校受験をするにあたって、一般教養が必要であることと、のちのち音楽を表現するのに必要な英語に触れたかったため、ICU高校を第一希望としていました。

―音楽を専門とする高校には入学するつもりはなかったのですか?

音 楽高校に入るには実力がいります。小4ぐらいから本気にならないと間に合わないと思います。それから先ほども言いましたが、一般教養を身につけたかったの で。ICUではヨーロッパ外国文化を体験できること、そしてやはり密な話をできる仲間と出会えたことが大きかったですね。

―密な話とは?

哲 学的な話です。好きな時に気が向いたメンバーで教室に集まって輪を作り、今気になっている話題をその場に提供して議論するんです。みんなで椅子を並べて輪 を作って話していたので、「車座」という名前を付けていました。それに、車座メンバーは個性的な人ばかりで。お金を持たずにサバイバルに出かけていく人も いれば、天才的で変な論究を突っ走る人もいる。みんな勉強ができるというよりも、一つの話題について一緒に深く語り合える頭の良さを感じました。
ここで知り合った友達からは刺激を受けることが多かったし、車座での集まりは日々の楽しみでしたね。実は自分人見知りだったのですが、ICUのアメリカン的なノリで、3時間ぐらい話をしていると気づいたら仲良くなっていました。

―高校受験を、それもICUを受験するとなると、やはりピアノの稽古は中断されたのですか?

いや、両立してました。(笑)特に土日は自分の時間が持てるので、みっちりスケジュールを組んでましたね。朝9時~夕方18時まで塾、18時~21時までピアノ、21時~24時まで勉強していました。受験生ではなくとも、ピアノの練習はしっかりやってましたね。自分、まじめだから、やんなきゃっていう意識が強かったんです。1日の練習確保のために中高時代はあまり遊べなかったです。

―そうなんですか。受験期でも関係なく練習を続けるなんて、よほど好きじゃない限り難しいですよね。川本さんは、普段どのよういな思いでピアノと向き合っているのですか?

初 めに言いますが、実は、僕は別に、音楽で人を感動させたい、とかいうことを目標にはしていません。人が言っていることもきれいごとに感じることがありま す。ひねくれているところがちょっとあるから、そんな風に考えるのかも知れません。感動させることを最終目標にはしていなくて、そんな演奏ができたらいい なと思っているぐらいです。自分の演奏に感動してもらえればそれはうれしいと思いますが、だからと言ってそういうことを狙ってはいません。単純にいい音楽をやりたいんです。

―川本さんの思ういい音楽とは?

これがまた複雑になってしまうのですが、いいですか?

―はい、お聞きしたいです。(笑)

実はこの話題、さっき話した車座メンバーで以前、語り合ったんです。

結局、結論ははっきりとはしなかったけれど、話し合うことで漠然としていたものに形がでました。話をおって説明していきます。

 

 音楽も一種のコミュニケーション



3月11日の東日本大震災で、”音楽の力”というフレーズをいたる所で耳にすることも多かったのですが、さっきもお話した通り、ひねくれている自分にはキ レイごとじゃん、と思うことがありました。でも、キレイごとじゃないのなら、”音楽の力”って何?、逆に、音楽で何ができるんだろう?って考えたときに、 音楽も一種のコミュニケーションだ、ということに気が付いたんです。

ピアノを弾くことで何かを表現し、聞いている側は何かを受け取る。ということは、感動や元気は受け取った人の気持ちであって、こちら側が押し付けるもので はない。こちらはそんなつもりではないことを受け取られてしまったり、その逆もあったりして、コミュニケーションとして成立しないこともある。だから、コ ミュニケーションは複雑なんです。こちらが思いをこめたとしても、聞く側次第、聞く側にゆだねられるから、相手を思って頑張っても、思いが伝わらなかった り、別に捉えられたりしてしまいます。だから僕がさっき、感動を与えるのを最終的な目標にしていないのもこれに基づきます。

―1曲を作り上げる際、作曲家の思いとか、曲に対する印象をイメージしながら弾くこともないのですか?


作曲家がどんな思いで書いたのかは参考程度ですね。自分の過去の経験や感情を照らし合わせることはあえてしていません。何千とある曲に対して、鮮明に言語 化したイメージをもつ必要はないと僕は考えています。こみあげてきた感情を頼りに、気の向くままに弾いています。自分は自由奔放なので(笑)


 音楽=カオス

 

そうやって考えていくと、自分たちの中でまとまった考えが浮かび上がったんです。


人間は悲しみ、嫌い、愛するといった感情を表す時に言語を用いる。でも、今の自分がどう思うかを伝えることはできるけど、どういう風に感じているか、具体 的にはっきりと伝えることはできない。人間は言語をコミュニケーションのツールとしていて、わからないことに名前を付けて言語化する。=コスモスの世界を 作る。これに対して、音楽はどうなのかと考えてみるとおもしろいことがわかります。


言語のコミュニケーション・・・正確だが本質を伝えられない

音楽のコミュニケーション・・・不鮮明だが本質的だと思う

音楽⇔言語


こう考えると音楽はカオスを表しているということに気付いたんです。聞く側は、演奏を聴いた後に、感動した、勇気をもらった、悲しい気分になった、などと 言語化して伝えるけれど、それはひとつの感情であって、聞いたありのままの感情を言語化して伝えることはできません。すごく複雑な話になってしまいました が、なんとなくイメージは伝わりますか?

―深い話ですね。感じたことをありのまま言葉で表現することはたしかに難しく感じます。

そうですね。だから大学でも、考えを無理に共有したり、押し付ける必要はないと思っています。演奏を聴いてどう感じるかはその人次第だし、自分もいい曲だね、というぐらいにしかコメントする必要はないと思っています。あ、あくまで僕が思うにですよ(笑)

―そうなんですか。譜面を見てどう読み取るのかもその人次第ですもんね。

大学生活はやはりレッスン三昧ですか?


いえ、大学の授業をさぼって自分で練習しています(笑)講義ばっかりはつまらないので。人に決められて、人から言われるとやる気をなくしてしまうこともた まにあります。言われたからやってるようにみられるのがいやなんです。何でも自分からやりたいという思いが強いので、逆に自分で決めたこと以外はやらない です。でも誤解しないでくださいね、人に頼まれたこともちゃんとやりますから!!だいたい1日8時間はひいています。

―川本さんは実践的なんですね!(笑)8時間はやはりかなりの練習量ですね!だから演奏にも自信があるというか、心の余裕さが伝わってくるように感じます。

では、将来はやっぱりピアニスト・・・?

演 奏家志望です。でも無理に頑張るのではなく、自然に生きていくイメージです。本当に自分の好きなように。一応自分の実力を確かめるためにコンクールにも出 ようと思っています。コンクールに通れば名も知れますし。あとは、人脈を大切にしていきたいです。人脈が広いことが今自分自身助かっていますし、広くない と仕事もまわってきません。いろんなつながりで助けられることもたくさんあります。


卒業してからになりますが、留学も考えています。第1志望はハンガリーに行きたいですね。何度も言いますがひねくれているので、メジャーなところには行きたくないんです(笑)

それから、ドイツですね。民族音楽にも興味があります。どちらにしろ、自由に生き抜いていきたいという思いは変わらないです。音楽を勉強しながら、芸術に触れたいと思っています。

ピアノに限らずとも、行動することが大好きで、企画や、今こうしてインタビューを受けていることも好きです。いろんなことに挑戦したいと思っています。

―インタビューを受けることもっ!今私、すごくうれしいです!

ありがとうございました!将来川本さんが広いステージを独占する日も近いかもしれませんね(*^^*)また川本さんの演奏を聴ける日を楽しみにしています!

*備考

八王子や飯田橋、大学内にてコンサートも開催。

実は荷物運びのバイトもしてます(笑)

川本 嵐
http://www.facebook.com/arashi.kawamoto

[文、写真・・・佐伯綾香]