『即興芝居』の知られざる世界へ、ようこそ。

 

No.133

劇団しおむすび代表・学習院大学

押谷 祥太(おしたに しょうた)さん

 

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「インプロ」という名を聞いたことがあるだろうか?

「インプロ」とは、インプロビゼーションの略で、「即興」を意味する。今回は特に「即興芝居」の事を指そう。

へえ、即興芝居なんてあるんだあと思った皆さん。実はインプロという文化は約20年前に日本に入って来たばかりのものなのです。

そんなインプロが持つ可能性を信じ日本にインプロを広めようとしている、学生インプロ団体がある。

 

その名も「しおむすび」

 

 

Lienでは、日本初となるこの組織を結成し現在指導にあたっている学習院大学の押谷さんに話を伺った。

 

 

 

無謀な挑戦の始まり

 

―押谷さんがインプロに出逢ったのはいつですか?

 

自分は高校生の時に演劇部に所属していました。大学生になって1年 生の時は演劇サークルに入って外部の公演に出ていたりしたのですが何となくって感じでしたね。そんなある日ワークショップを巡っていた時にインプロに出 会ったのですが、その時は本格的にやろうとは思っていなくて、完全にお遊びとして捉えていてちょこちょこやるぐらいでした。

本格的に学び始めたのは去年の3月くらいからかな?だから、大学に入ったときにはインプロをしようという気は全くありませんでした()

 

―インプロを本格的に学ぼうと思ったきっかけを教えてください。

 

東京コメディストアジェイのワークショップに参加した事がめちゃくちゃ大きな影響を与えましたね。インプロって元々海外で生まれたもので、日本に入って来たのが20年前とかで最近なのですが、その際本来の形がだいぶ崩れてしまっていて正確には伝わっていないんです。

そんな中そこのワークショップで学んだのが本格的なインプロでした。代表でありインプロの指導者としても有名な今井純さんの本も以前から読んでいたりしたので、インプロってとても面白いなあと思ったんです。

 

というのも、自分は、演劇をやっていたからという理由もあって、昔から人について考えるのが好きです。「人間って何ぞや?」「何で人ってこうやって行動するんだろう?」とかをよく考えていました。

そ のワークショップに参加してからインプロを本格的に学んで、本を読んでいたら、自分の考えや自分が「人間ってこうなったらいいな」って思っているものがイ ンプロの中にある事に気がつきました。「あ、これからもインプロを学んでいこう。」って僕の中で繋がったんですね。自分にとってのヒトとしての理想がその 先に見つかるかもしれない。さらにいえば、そういう人間を育てられる可能性がインプロにはあるなって。

 

―なるほど。それで「劇団しおむすび」を結成したんですね。

 

はい。去年の7月に劇団しおむすびを結成して、公演を9月に開始しました。でも、当時の僕は結構無謀な事をしていましたよ。だって、34月に本格的にインプロを学び始めて、その3カ月後には団体を立ち上げようとしていたんですから()

「自分よくやるなあ。」って思いながら、でもやっぱりやらないと先が見えないじゃないですか。「こうやりたいなあ。」って思っていても行動しないと結局は次に繋がらないから、しのごの言わずにやろうと。潔いでしょ()。それをきっかけにメンバーも増えていって公演も増やしていって今に至ります。

 

―劇団のメンバーはどこからきているんですか?

初期メンバーは僕が所属している学習院大の演劇サークルの後輩が中心ですね。他はもう、大学も関係なく集まってきました。今後はそういった人が増えてくると思います。

メンバー同士はすごく仲がいいですよ。インプロをやりたいと思ってくれている子は自分を変えたいと思って来ている訳ですから。少しずつですが皆良い方に変わってきていて、彼らの成長を見るのも楽しみの一つです()

恐怖⇔自由

―では、押谷さんにとって「インプロ」とは何ですか?

 

僕 らがやっているのは、即興でより興味深いストーリーを作る事です。より興味深いストーリーを作るってどういう事かって言うと、予測がつかない未知の展開に いくってことです。例えば、今この場でずっとインタビューをしているじゃないですか。ここで僕がいきなりあなたの手を握ったら「お、何だ?!予測してな かった!」ってなりますよね()

 

こ れをクリエイトしていくのが僕らの芝居です。即興で興味深いストーリーを作れるっていう事は、人生においても同じ事ができるようになります。要は、人生っ てどういう選択をするかで決まってくるじゃないですか。例えば、ここで行動するのかしないのか、ここで好きって言えるか言えないのか、とかね。

だから即興芝居ってその人の人間性がもろにでてくるんです。12時間喋るよりも5分間即興芝居やった方がその人の事よく分かります。日頃からポジティブな人は大胆な選択、行動ができる一方でネガティブな人はそれができません。でも、みんな人にはそれぞれネガティブな癖があります。インプロをやるってそういったものを取っ払っていく作業だと思うんです。

 

ネ ガティブな癖の根源は「恐怖」です。恐怖を感じている人は面白い話を引き出せません。変化、未知とか周りに対して脅えている人は変われない、次の展開にい けない、大胆な事ができない。恐怖を感じている人は自由じゃない。自由の反対語って恐怖だと僕は思います。恐怖を感じずに大胆にやれる人は人として素敵で すよね。僕自身もそうなりたいし、そういう人が周りに増えたらいいなって思ってインプロをやっています。

 

―気になったのですが、普段のインプロの練習って何をするんですか?即興となると台本とかもないと思うのですが。

 

イ ギリスのインプロのエクササイズを真似て色々なゲームとかエクササイズとかをやっています。基本的に何がしたいかと言えば色々な恐怖からフリーになって欲 しい。失敗したくないとか人から影響を受けたくないとか、自分の知らないところに行きたくないとか、そういう恐怖から外れていくための演劇のゲームがいく つかあって、それをやりながらオープンになっていく。基本的には恐怖から解放される事がまず第一であって、色々なエクササイズを試していますね。

 ユニークなエクササイズの1例。その名も「ハーレム」。 
 1
人に対して複数の異性がアプローチをかけ、最終的に気に入った方と付き合う。
 相手が何を望んでいるかに一瞬一瞬気を配り、求めているものを提供するエクササイズ。

 

 

そ れよりも僕は何を教えるかっていうことより、どう教えるかを気にしています。一番気をつけているのは、「評価しない」という事です。特に悪い評価はしない ようにしています。皆人の目を怖がっている。でも失敗することを嫌だと思わないでほしい。失敗しないと成長できません。それに失敗するって事は自分が今ま でこなせていた範囲をこえたっていう事でしょ?失敗から学べばその範囲もどんどん広がるんです。だから稽古場では失敗してもOKな場を作ることを心がけています。1回失敗したら「もう1回~!」って笑顔で仕切り直しです。だから、デモンストレーションは下手な人にさせるんです()。上手な人にやらせると、周りの人はそれを真似してしまうんですよ。

 

―・・・なんかインプロって演劇とはまるで違いますね()

 

演劇の役者は必ずしもインプロを出来るとは限らないんですが、インプロをやっている人は必ず演劇もできます。僕も最初は演劇をやっていたのですが、今になって思うと「ああ、演劇って狭いなあ」って思いますね()

 
正しさではなく「喜び」

 

―そんな劇団しおむすびさんもついに先日1周年を迎えられましたね、おめでとうございます。今後はどのように活動していくつもりなのでしょう?

 

9/79日に1周年記念ライブをやらせていただきました。すごく楽しかったんですけど、やっぱりいつまでたってもお客さんとの距離を埋められないっていう課題があります。どうしても芝居が「見せ物」になってしまい見る側と見られる側の関係が常に一定だったんです。でも、1周年を迎えて考え直した時に「インプロって見るものじゃないなあ」って思いました。

 

ここからは少し細かい話になってしまうのですが、元々インプロはイギリスとアメリカから入ってきたもので、ほとんどの日本のインプロ団体はイギリス、アメリカの形式をとってショーをやるんです。僕達もこのあいだ9月にやった1周年記念ライブまではそうでした。

だけど、よく考えたら国民性って全然違いますよね。欧米の方だと本当にオープンで、皆で集まってわいわいやるのが日常になっている人達ばかりです。でも、われわれ日本人って厳格に、厳粛に、かしこまって、みたいなところがあって。

そういった国民性の違いを考えた時に、インプロが20年間日本に根付いていない理由はそこにあるんじゃないか、と思いました。

やっぱり見るお客さんがついていけないのが現状です。どのインプロ団体もそれで苦労しています。そんな中でやっても無駄だと思いました。人ってネガティブな方に引かれるじゃないですか。一人が引いてしまうと周りの人も皆引いてしまいますからね。なので11月にやる次の公演で形式を変えようと思います。

 

―行動が早いですね!(笑) 具体的にどうやって変えるんですか?

 

こ れからはお客さんも直接芝居に参加していただけるようにします。僕はやっぱり良いもの見たなあって帰られるより良い体験したなあって帰ってもらいたい。そ れに体感してもらわないと分からない事なんですよ。我々が日常で教わっている事って「こうやりなさい。」ってマニュアルに従う事ばかりだけどインプロには マニュアルが無いですから。

 

僕がよく言うのは「正しさではなくて喜びだ。」っていう事。これは僕の哲学なんだけど。まずは皆で楽しもうと思います。この試みは多分日本初じゃないでしょうか。この事に気付いたからには、やるしかない!と思いました。まあ気付いたのは一昨日くらいなんですが()

 

―では、押谷さん個人としての将来の願望って何ですか?

 

勿論、日本全体にインプロを広めたいという願望もあります。けれど、やっぱり一番は学生をよりオープンに、自由にしたいっていうのがありますね。

さっ きも言ったんですけれど、恐怖から解放されてほしい。大学生って学校、社会、家族から微妙な距離にいる、いわゆるグレーゾーンじゃないですか。この段階で 人としてどうあるべきかを自分で考えておくべきですよね。大学生のうちに積極的に何かやったりだとか、人と交流したりするマインドを持てるようになって欲 しい。

 


 笑い声が今にも聞こえてきそうなインプロライブの様子。

 


本当は学生よりも親、先生、上司といった教育する側こそがそうあるべきなんですけどね。でも最近は勉強ばっかりを良しとする風潮があって人として一番大事な事を教えてない。いじめやひきこもりが増えたり、若者の死亡要因として自殺が常に上位にあったりといった問題の原因もここにあると思うんです。

これからの事を思うと、次世代の日本を担う若者が変わる必要があります。そしてインプロにはそれを可能にする力がある。だから僕はインプロをやるんです。

 

―深いですね・・・。では最後に、学生に一言お願いします。

 

繰り返しになってしまうのですが、自由に生きてください。自分の人生ですから、他人が作るものじゃありません。もっとオープンに、大胆になって欲しいですね。

 

劇団しおむすび

HP: http://hokkori.me/shiomusubi/

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【文・写真】菅生真希